薬局で働く薬剤師の約40%が職場の人間関係に不満を抱えており、転職理由の第3位に「人間関係の悪化」が挙げられています。狭い調剤室で少人数と長時間働く薬局特有の環境が、人間関係のストレスを生みやすくしています。
本記事では、薬局の人間関係がしんどいと感じる原因を詳しく分析し、今すぐ実践できる解決策から転職を検討する際のポイントまで、現場経験に基づいた具体的な方法をご紹介します。
薬局の人間関係が特にしんどい5つの理由
薬局という職場環境には、他の業種にはない独特の要因が人間関係のストレスを生み出しています。ここでは薬剤師が人間関係で悩みやすい具体的な理由を解説します。
狭い空間で少人数と長時間働く閉鎖的環境
薬局の調剤室は平均10坪程度と非常に狭く、3〜10名程度の少人数で業務を行います。この限られた空間で1日8時間以上を同じメンバーと過ごすため、人間関係に亀裂が生じると逃げ場がありません。
一般的なオフィス環境であれば、苦手な人とは距離を取ることができますが、薬局では物理的にも心理的にも距離を取ることが困難です。さらに、薬局の従業員の入れ替わりは極端に少なく、長期間同じメンバーと働き続けるため、一度関係が悪化すると修復が難しくなります。
薬剤師の40%が職場の人間関係に「大いに不満/やや不満」と回答
忙しさとミスが許されないプレッシャー
調剤業務は患者様の命に関わる仕事であり、ミスは絶対に許されません。外来処方箋の枚数が多い薬局では、迅速かつ正確な対応が求められます。
このプレッシャーの中で働くと、調剤室内には常に緊張感が漂い、ギスギスした雰囲気になりがちです。忙しい時間帯にはコミュニケーションが疎かになり、言葉足らずな指示や確認不足から誤解や衝突が生まれやすくなります。
女性が多い職場特有の人間関係
薬剤師の約6割が女性で、調剤薬局では事務員もほぼ女性という職場が多く、女性100%の薬局も珍しくありません。女性が多い職場では、グループの形成や派閥、陰口などの人間関係トラブルが発生しやすい傾向があります。
薬剤師111人を対象としたアンケート調査では、薬剤師が転職する原因となった人間関係トラブルの最多は「上司や年上薬剤師によるイジメや厳しすぎる」で48.3%を占めています。
薬剤師が転職する原因となった人間関係トラブルの48.3%が「上司や年上薬剤師によるイジメや厳しすぎる」
上司や管理薬剤師との関係性
管理薬剤師や上司との関係が悪化すると、業務指示や評価に影響が出るため、ストレスは非常に大きくなります。特に新人薬剤師は、必要以上の叱責や逆に何も教えてもらえない状況に陥ると、精神的に大きなダメージを受けます。
薬剤師の人間関係に対する不満理由として、「苦手な人がいる」が49%で最多となっており、特定の人物との相性問題が大きな要因となっています。
人間関係に不満と回答した薬剤師の49%が「苦手な人がいる」と回答
社歴の長いスタッフによる非公式な権力構造
チェーン展開する薬局では、正社員の転勤がある一方で、社歴が長く経験豊富なパート・アルバイトスタッフが実質的な権力を持っているケースがあります。いわゆる「お局様」のような存在がいると、新しく入った薬剤師は職場に馴染むのが困難になります。
フリーランス薬剤師や派遣薬剤師は、既に形成されている従業員の輪に入りにくく、最初の段階で良好な関係を築けないと、その後の業務に支障をきたすこともあります。
人間関係に不満を抱える薬剤師の具体的な悩み
ここでは、薬剤師が実際に抱えている人間関係の悩みを相手別・状況別に詳しく見ていきます。自分の悩みと照らし合わせながら読んでみてください。
同僚薬剤師との関係で感じるストレス
仕事の進め方やルールが不明確
調剤室内でのルールや業務手順が明確に決まっていないと、薬剤師同士で意見の対立が生まれやすくなります。「自分のやり方で仕事が進められない」という不満は、人間関係に不満を抱える薬剤師の25%が挙げています。
繁忙時の協力体制がない
忙しい時間帯やトラブル発生時にフォローし合える体制がないと、個々の負担が増大し、不満やストレスが蓄積します。「繁忙時やトラブル時に協力体制がない」という不満は33%の薬剤師が感じています。
人間関係に不満を持つ薬剤師の36%が「仕事のやり方などルールが明確に決まっていない」、33%が「繁忙時やトラブル時に協力体制がない」と回答
事務員との関係で生じる問題
調剤薬局では、薬剤師と事務員が連携して業務を行いますが、立場や業務範囲の違いから摩擦が生じることがあります。事務員が気難しく、コミュニケーションに疲れるという声も多く聞かれます。
特に、処方箋の受付対応や患者様への説明の分担、レセプト業務などで意見の相違が生まれやすく、日常的な小さなストレスが積み重なっていきます。
他職種(医師・看護師)との関係
病院薬剤師の場合、医師や看護師など多職種との関わりが必須です。疑義照会の際に医師から高圧的な態度を取られたり、チーム医療の場で薬剤師の意見が軽視されたりすることで、人間関係のストレスを感じる薬剤師は少なくありません。
職種によって上下関係が固定化されている病院では、薬剤師が発言しづらい雰囲気があることもあり、これが離職の原因となるケースもあります。
パワハラ・モラハラに該当する行為
職場のパワーハラスメントは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもので、この3つの要素を全て満たすものを指します。
薬局という密で閉鎖的な環境では、上司の圧力が常習化することもあります。必要以上の叱責、無視、陰口などの行為が該当する場合、我慢する必要はありません。
参考:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
今すぐ実践できる人間関係改善の7つの方法
人間関係の悩みは相手がいるため自分だけで解決するのは難しいですが、適切な対処法を知ることで状況を改善できる可能性があります。
コミュニケーションを積極的に取る
勘違いや行き違いから人間関係の悪化が起こることは多いため、日頃からしっかりとコミュニケーションを取ることで、関係を良好に保ちやすくなります。
具体的には、以下のような行動が効果的です。
挨拶を徹底する
「おはようございます」「お疲れ様です」など基本的な挨拶を元気よく行う
感謝の言葉を伝える
何かしてもらったときは「ありがとうございます」と明確に伝える
報告・連絡・相談を徹底する
自分の仕事の進捗状況を共有し、情報の行き違いを防ぐ
笑顔を絶やさない
暗い印象だと周りから声をかけにくくなるため、適度に明るく接する
上司や信頼できる同僚に相談する
人間関係の悩みを一人で抱え込むのは危険です。上司や同僚に相談することで、話しやすい雰囲気を作ることができ、関係改善への手助けになります。
上司に相談する際は、具体的な事例や自分が感じている困難を明確に伝えましょう。仕事内容や部署の調整、勤務シフトの変更など、上司の権限でできる対応策があるかもしれません。
職場外の友人や家族に話を聞いてもらう
同じ職場の同僚に相談すると、余計なトラブルに巻き込まれたり、意見の食い違いから関係がこじれたりするリスクがあります。
あえて社外の人(友人や家族)に話を聞いてもらい、客観的な意見をもらう方が効果的です。自分の気持ちが整理でき、冷静に状況を把握できる可能性が高まります。また、とりあえず話を聞いてもらうだけでも、ストレスが解消できることがあります。
割り切って必要最低限の関わりに留める
全ての人と仲良くなる必要はありません。「仕事は仕事、人間関係は気にしない」と割り切り、必要以上に関わらないのも一つの有効な方法です。
最低限の挨拶や仕事の話だけをして、プライベートなことは一切話さないというスタンスも選択肢の一つです。必要以上に関わらなければ、相手からも興味を持たれず、余計なストレスが生じません。
ただし、周りを気にしすぎる性格の方や、HSP(Highly Sensitive Person)の気質を持つ方は、割り切ることが難しい場合もあります。体調や精神面に影響が出るなら、他の対処法を検討しましょう。
ストレス発散方法を見つける
異動や転職がすぐにできない場合、人間関係のストレスを軽減する気分転換方法を見つけることが重要です。
週末にアウトドア活動を楽しむ、趣味の時間を確保する、運動をするなど、うまく気分転換できる方法を見つけられれば、ストレスを軽減できます。
ただし、これはあくまでも対処療法であり、職場の人間関係そのものは解決されないため、根本的な解決には他の方法を併用する必要があります。
店舗や部署の異動を希望する
チェーン展開している薬局であれば、店舗異動という選択肢があります。異動先がうまく見つかれば、苦手な人との関わりを断ち切り、新しい環境で人間関係をリセットできます。
異動を希望する際は、上司に具体的な理由を伝え、どのような環境であれば働きやすいかを明確にすることが大切です。ただし、異動先がない個人薬局や、希望が通らない場合は、この方法は難しくなります。
心理学的アプローチを活用する
人間関係を向上させるために、心理学の知見を活用するのも効果的です。以下のような心理法則を意識してみましょう。
メラビアンの法則
コミュニケーションにおいて、言葉の内容よりも表情や声のトーンの方が相手に与える影響が大きいという法則です。明るい表情と穏やかな口調を心がけることで、相手に好印象を与えやすくなります。
類似性の法則
人は自分と似た特徴を持つ人に好意を抱きやすいという心理です。相手の話に共感を示したり、共通の話題を見つけたりすることで、距離を縮められます。
返報性の法則
人から何かを受け取ると、お返しをしたくなるという心理です。先に親切にしたり、感謝を伝えたりすることで、相手も同様に接してくれる可能性が高まります。
単純接触効果
繰り返し接触することで、相手への好感度が高まる現象です。積極的にコミュニケーションを取る機会を増やすことで、関係改善につながります。
自己開示
自分のことを適度に話すことで、相手も心を開きやすくなります。ただし、自慢話は妬みの原因になるため、バランスが重要です。
我慢すべき?それとも転職すべき?判断基準
人間関係の悩みをどこまで我慢すべきか、転職を検討すべきかの判断は難しいものです。ここでは具体的な判断基準をご紹介します。
我慢せず転職を検討すべきケース
以下のような状況では、無理に我慢せず転職を検討すべきです。
パワハラ・モラハラが常態化している
・暴言、無視、過度な叱責などが日常的に行われている
・上司や先輩薬剤師からのいじめが改善される見込みがない
心身の健康に影響が出ている
・出勤前に動悸や吐き気がする
・不眠や食欲不振が続いている
・うつ症状や不安障害の兆候がある
改善のための行動を取っても状況が変わらない
・上司に相談しても対応してもらえない
・人事部や相談窓口に連絡しても改善されない
・複数の方法を試しても一向に解決しない
職場全体の雰囲気が悪い
・陰口や悪口を言う人が複数いる
・協力体制が全くなく、個人主義が蔓延している
もう少し様子を見てもよいケース
以下の状況では、すぐに転職するよりも、改善の余地があるかもしれません。
入社して間もない場合
・まだ職場に慣れておらず、相談もしていない
・3ヶ月〜半年程度経てば関係が改善する可能性がある
性格的に合わないだけの場合
・いじめや嫌がらせではなく、単に相性の問題
・割り切って必要最低限の関わりにすることで解決できる
改善の兆しが見える場合
・上司が対応を約束してくれた
・異動の可能性が出てきた
転職理由として人間関係はどの程度重要か
薬剤師の転職理由を調査した結果では、1位「スキルアップのため」(28%)、2位「人間関係に不満」(14%)、3位「勤務時間・残業に不満」(12%)となっており、人間関係は主要な転職理由の一つです。
出典:薬キャリ 薬剤師の転職実態調査vol.3
さらに、転職経験のある薬剤師の約75%が転職を経験しており、その中で「人間関係の悪化」を転職に踏み切った一番の理由として挙げた薬剤師は14.6%に上ります。
出典:薬キャリ 職場ナビ 薬剤師の人間関係について意識調査
人間関係を理由とした転職は決して珍しくなく、28.4%の薬剤師が人間関係の問題解決方法として転職を選択しています。
人間関係の良い職場を見つける転職のコツ
転職を決意した場合、次の職場で同じ悩みを繰り返さないために、人間関係の良い職場を見極めることが重要です。
職場見学で実際の雰囲気を確認する
できるだけ普段の様子がわかる時間帯に見学することが理想ですが、難しい場合は患者として訪れてみるのも一つの方法です。
スタッフ同士のやり取り:薬剤師間、または事務員とのコミュニケーションの様子
表情や態度:スタッフが笑顔で働いているか、ギスギスした雰囲気はないか
整理整頓の状態:掃除や棚の整理、掲示物がきちんと管理されているか(人間関係が良い職場は整理整頓されていることが多い)
忙しい時間帯の対応:繁忙時にどのように協力しているか
求人情報から危険信号を読み取る
以下のような求人情報には注意が必要です。
掲載期間が長い求人:長期間掲載されている求人は、人間関係や職場環境に問題を抱えている可能性があります。採用してもすぐに辞めてしまう人が多いため、常に求人を出しているケースが考えられます。
待遇が良すぎる求人:必要以上に待遇が良い求人は、給与を上げなければ応募が見込めない理由(人間関係や労働環境の悪さなど)がある可能性があります。
掲載頻度が高い求人:定期的に同じ求人が掲載される会社は、社員の入れ替わりが激しい証拠かもしれません。
転職エージェントの内部情報を活用する
人間関係の良い職場を見つけるのが難しいと感じる場合、転職エージェントの利用が効果的です。
薬剤師の初めての転職活動で選ぶ方法は「転職エージェントの利用」が42%で1位となっており、約二人に一人が転職エージェントを利用しています。さらに、初めての転職で転職エージェントを利用した薬剤師の87%が、2回目以降も転職エージェントを利用しています。
出典:薬キャリ 薬剤師の転職実態調査vol.3
転職エージェントを利用するメリット
職場の内部情報を教えてもらえる:実際の人間関係や職場の雰囲気など、求人票には載らない情報を入手できる
非公開求人にアクセスできる:好条件で人間関係も良好な求人は、一般には公開されないことが多い
面接対策や条件交渉のサポート:転職理由の伝え方や、希望条件の交渉を代行してくれる
口コミサイトや評判を確認する
インターネット上の口コミサイトや、薬剤師専門の職場レビューサイトを活用しましょう。実際に働いている、または働いていた薬剤師の生の声を確認できます。
ただし、口コミには主観的な意見も含まれるため、複数の情報源を比較検討することが重要です。
転職活動で人間関係を理由に伝える際の注意点
転職理由を面接で伝える際、人間関係を正直に話すべきか悩む方は多いでしょう。ここでは適切な伝え方を解説します。
人間関係を転職理由として伝えるのはNG
人間関係を理由とした転職は多い一方、転職理由を正直に「人間関係」と伝えるのは印象が悪くなるためNGです。
・人付き合いはどこでもついて回るため、「この人も同じ問題を起こすのでは?」と疑われる
・本人に問題がある可能性も考えられてしまう
・ネガティブな印象を与え、採用の障壁となる
ポジティブな転職理由への変換方法
転職理由を伝える際は、「ネガポジ変換」を意識しましょう。
転職のきっかけ:2割(簡潔に)
これからの展望:8割(ポジティブに)
❌ 悪い例:「上司と合わなくて、毎日ストレスでした」
⭕ 良い例:「前職ではチーム医療への取り組みが限られていましたが、貴社では多職種連携を重視されていると伺い、より患者様に寄り添った薬剤師業務ができると考え、応募いたしました」
【ポイント】
・前職での経験に「おかげさまで」とポジティブな要素を見つける
・「~がいやだ」を「~したい」に言い換える
・今の職場ではできなくて、次の職場でやれそうなことを明確にする
面接で好印象を与える転職理由の例
スキルアップを前面に出す 「在宅医療に携わる機会を増やしたいと考えています。前職では外来調剤が中心でしたが、貴社では在宅医療に力を入れていると伺い、自分のスキルを広げられると感じました」
ライフステージの変化を理由にする 「家族の事情で勤務地を変更する必要が生じ、通勤圏内で働ける職場を探しています。貴社の理念や取り組みに共感し、ぜひ貢献したいと考えています」
まとめ
薬局の人間関係がしんどいと感じるのは、狭い空間で少人数と長時間働く環境、ミスが許されないプレッシャー、女性が多い職場特有の問題など、複合的な要因によるものです。
改善方法として、コミュニケーションの徹底、上司への相談、割り切った対応などがありますが、心身の健康に影響が出ている場合は無理に我慢せず転職を検討すべきです。転職時は職場見学で雰囲気を確認し、転職エージェントの内部情報を活用することで、人間関係の良い職場を見つけることができます。
まずはキャリアの可能性を知る相談から
キャリア相談・面談依頼はこちらから
田井 靖人
2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。
座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。