薬剤師が抱えるストレスの原因と対処法

薬剤師 ストレス

薬剤師として働く中で、人間関係や業務量、責任の重さにストレスを感じていませんか?
実は薬剤師の約8割が何らかのストレスを抱えているという調査結果があります。

本記事では、薬剤師特有のストレス要因を明らかにし、職場で実践できる具体的な解消法から転職という選択肢まで、あなたのストレスを軽減するための方法を詳しく解説します。

薬剤師が抱えるストレスの実態

 

薬剤師の職業性ストレスの現状を理解することは、適切な対策を講じる第一歩です。ここでは統計データをもとに、薬剤師のストレス状況を見ていきます。

8割以上の薬剤師がストレスを感じている

複数の研究調査により、薬剤師の多くがストレスを抱えている実態が明らかになっています。病院薬剤師を対象とした調査では、仕事でストレスを感じている割合は男性83.3%、女性85.4%に達しました。また保険薬局薬剤師においても男性81.3%、女性84.0%がストレスを感じていると報告されています。

引用元:一般社団法人日本薬局学会「保険薬剤師における職業性ストレスとインシデントとの関連性」

別の調査でも、「強く感じる」が31%、「やや感じる」が45%となり、約76%の薬剤師が何らかのストレスを感じているという結果が出ています。これらのデータから、ストレスは薬剤師という職業に共通する大きな課題であることが分かります。

高ストレス者の割合は17.9%

厚生労働省が定める職業性ストレス簡易調査票による高ストレス者の選定基準を用いた調査では、保険薬局に従事する薬剤師のうち84名(17.9%)が高ストレスありと判定されました。

引用元:日本薬局学会「保険薬局に従事する薬剤師の職位別にみた職業性ストレスの比較検討」

また、正規雇用の薬剤師は非正規雇用に比較して高ストレス者の割合が有意に高いという結果も出ており、雇用形態によってもストレスの度合いが異なることが示されています。

ストレスチェック制度とは

厚生労働省は平成27年12月からストレスチェック制度を施行しました。これは労働者のストレス状況について定期的に検査を行い、本人に結果を通知することで、自らのストレス状況への気づきを促す制度です。個人のメンタルヘルス不調のリスク低減や、検査結果を集団的に分析することで職場環境の改善を図り、労働者がメンタルヘルス不調に陥らないよう未然に防止することを目的としています。

引用元:厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」

50人以上の事業場では実施が義務付けられていますが、50人未満の薬局では努力義務となっています。

薬剤師のストレス原因

 

薬剤師がストレスを感じる原因は多岐にわたりますが。それぞれの原因を理解することで、自分が抱えているストレスの正体が明確になります。

職場の人間関係

職場の人間関係は、薬剤師のストレス原因の第1位です。調査では48%の薬剤師が人間関係にストレスを感じていると回答しています。

調剤薬局では狭い調剤室で同じスタッフと長時間を過ごすため、相性が合わない人がいると逃げ場がなくなってしまいます。休憩中も同じメンバーで過ごすことが多く、ストレスを感じやすい環境です。

病院薬剤師の場合も、人事異動が少ない職場であるため、一度人間関係が崩れると修復が難しく、行き詰まってしまうケースが少なくありません。ドラッグストアでは、登録販売者や一般の販売スタッフなど、異なる立場のスタッフと関わるため、人間関係が複雑になる傾向があります。

疑義照会時の医師との関係

薬剤師特有のストレス要因として、疑義照会における医師とのやりとりがあります。処方箋に疑問がある場合、薬剤師法により疑義照会を行わなければなりませんが、医師から非難を受けたり面倒がられたりすることがあります。

門前薬局などで医師との関係がギクシャクすると、仕事がやりにくくなり、大きなストレスとなります。病院によっては調剤薬局の薬剤師から直接医師に疑義照会ができず、病院薬剤師を通す必要があるケースもあり、その場合は病院薬剤師が医師からのストレスの矛先を向けられることもあります。

業務量と業務内容の負担

調査では34%の薬剤師が仕事量にストレスを感じており、28%が仕事内容にストレスを感じています。

人手不足により一人あたりの業務量が多くなっている職場では、ミスの許されない仕事であるため、業務量に比例して心理的な負担も大きくなります。ドラッグストアでは、調剤だけでなく棚出しやレジ打ちなど薬剤師に直接関係のない業務もこなさなければならず、肉体的にもきついと感じる人が多いです。

一方、調剤薬局では業務が単調すぎることもストレス要因となります。特に門前薬局では、慢性疾患や生活習慣病に対する継続処方が多く、服薬指導も画一的になりやすいため、やりがいを感じにくくなる可能性があります。

患者対応のストレス

接客業である以上、患者対応もストレス源となります。気難しい患者や、体調が悪くイライラしている患者への対応に困ることが多くあります。高齢者は処方する薬の量が多く、丁寧な説明が必要なため時間がかかり、忙しい時には特にストレスを感じやすくなります。

給与・待遇面での不満

厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査によると、薬剤師の平均年収は578万円で、全産業の平均年収460万円よりも高い水準にあります。

引用元:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況」

引用元:国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」

しかし、人の命や健康に関わる職業で、ミスは許されず、常に最新の医療・医薬品情報を入手する必要があることを考えると、報酬が責任の重さに見合っていないと感じる人も少なくありません。また、休みが取りづらい、勤務地や勤務時間の希望が通らないなど、待遇面に不満がある場合も強いストレスの原因となります。

ノルマへのプレッシャー

ドラッグストアではノルマを課されるケースが多く、これもストレスの一因です。厳しい企業では、他のスタッフの前でプレッシャーをかけられたり、ボーナスを減額されたり、自腹で購入する雰囲気になることもあります。

近年は調剤薬局でも、かかりつけ薬剤師の同意書取得件数などのノルマを設定するケースが見られます。特に大手チェーンに多い傾向ですが、患者に営業トークのような声かけをすることにストレスを感じる人が少なくありません。

やりがいの喪失

高い志を持って国家資格を取得したのに、日々の業務がルーチン化し、刺激がなくなって自分の成長が止まったと感じることもストレス要因となります。単調な業務の繰り返しで、薬剤師としての専門性を活かせていないと感じると、モチベーションが低下し、「このままでいいのか」と思い悩む人もいます。

職場でできるストレス対策

 

ストレスを感じたとき、職場環境を改善することで軽減できる可能性があります。ここでは、今の職場ですぐに実践できる5つの対策をご紹介します。

上司や同僚に相談する

一人で悩みを抱え込まず、職場の上司や同僚に相談することが大切です。悩んでいることが人間関係であれば、その原因となっている人物とは別の同僚に相談することで、橋渡し役をお願いできる可能性もあります。

業務内容や待遇、ノルマへの不満についても、誰かと共有するだけで気分が変わりますし、具体的なアドバイスがもらえるかもしれません。上司に相談することで、苦手な同僚と関わり合いの少なくなる環境を作ってもらえることもあります。

業務環境を整える

調剤室やDI室を整理整頓し、効率よく業務が行えるようにすることで、ストレスを緩和できます。忙しいせいで雰囲気が悪くなっている場合は、全員でこまめな休憩を心がけたり、ストレッチを取り入れたりすると、職場の雰囲気がやわらぐかもしれません。

苦手な同僚とのコミュニケーションがうまくいかず業務に支障が出ている場合は、連絡ボードやチャットツールなどでやりとりできないか、職場に提言してみるのも一つの方法です。

職場のルールを明確化する

同じ職場で働いていても、一人ひとり仕事の仕方や考え方は異なります。個人ごとのズレが生じると、意図せず職場内でお互いのストレスを生んでしまうこともあります。

薬局のルールを明確に制定し、それを守っていくことで業務の円滑化が図れます。例えば、調剤のルールを再確認し、細かいことでも具体的に決めておくと、動作の迷いも少なくなり、作業効率が上がることが期待できます。

コミュニケーションを取る

人間関係のストレスを軽減するためには、アサーションという考え方が有効です。アサーションとは、自分と相手の意見や考え方が違ったときに、自分が我慢するのでもなく相手を攻撃的にやり込めるのでもなく、お互いが率直に意見を伝え合い、すり合わせを行っていくコミュニケーション方法です。

勤務時間帯や配置の調整を依頼する

特定の人との人間関係にストレスを感じている場合、勤務時間帯を少しずらすだけで接する機会が減り、ストレスが軽減されることもあります。営業時間が長いドラッグストアなどでは、この方法が有効です。

複数の支店がある職場なら、他の店舗への異動を申し出てみるのも一つの方法です。人間関係をリセットできる可能性があります。

プライベートでできるストレス解消法

 

仕事のストレスは、プライベートの時間を充実させることでも軽減できます。ここでは、業務時間外にできる効果的なストレス解消法を紹介します。

身近な人に話を聞いてもらう

職場内では話しづらい愚痴であれば、学生時代の同期や先輩、後輩に連絡してみましょう。薬剤師のつらさを理解している人に話を聞いてもらえば、気持ちが晴れるはずです。同じ薬剤師として、業務上の責任を理解していることで、第三者の立場から新たな視点を与えてくれるかもしれません。

家族や友人に話を聞いてもらうのも効果的です。業務の背景を知らないからこその新鮮なアドバイスをもらえるかもしれませんし、話しているうちに自分の考えが整理されていくこともあります。何より、つらさを受け止めてもらえることが大きな救いや癒しになります。

十分な睡眠と休息を取る

仕事で疲れを感じたときは、心身をしっかり休ませることを第一に考えましょう。特に睡眠不足は精神状態を悪化させる原因となります。まずは、しっかり眠ることを心がけてください。

プライベートでもタスクが山積みという方は、思い切ってタスクを放り出してみるのも一つの方法です。プライベートのタスクなら、友人や家族、パートナーに手伝ってもらうことで取り返せます。生活サービスや時短家電を導入するなどして、休息の時間を捻出するのも良い方法です。

体を動かしてリフレッシュする

悩みや迷いが頭の中をぐるぐる回って眠れないときは、逆に体を動かしたほうがリフレッシュできることがあります。アウトドアやスポーツが好きなら、休日を利用してたっぷりと体を動かしましょう。

本格的な運動が苦手という人であれば、近所をいつもより大股歩きで散歩したり、ヨガやストレッチの動画を見ながら体を動かしたりするだけでも十分です。その後、ゆっくりとお風呂につかれば、よりリラックスできます。

没頭できる趣味を見つける

職場を離れたら気持ちを切り替え、嫌なことを引きずらないほうがストレスの低減につながります。没頭できる趣味があれば、仕事のモヤモヤを手放すのに役立ちます。

スポーツや文化系の習いごと、ライブ、旅行などは、多くの人にとってストレス解消に役立つ趣味となっています。夢中になれる趣味が見つからないという人は、深く考えず、目についたものをとりあえず始めてみるのがおすすめです。

プライベートを充実させる

非日常感を味わえる旅行や、好きなことに時間を使うことで、「休みのために日々の仕事を乗り切ろう」という活力につながります。プライベートを充実させることは、仕事のストレスを軽減する上で非常に重要です。

ストレスが心身に与える影響

 

ストレスを放置すると、心身にさまざまな悪影響が現れます。早期に対処することが重要です。ここでは、ストレスが及ぼす具体的な影響について説明します。

心理的な影響

ストレスが蓄積すると、不安感、抑うつ感、イライラ、集中力の低下などの心理的症状が現れます。仕事に対する意欲が低下し、「職場に行きたくない」と感じるようになることもあります。

重度のストレス状態が続くと、うつ病などのメンタルヘルス不調につながる可能性もあります。

身体的な影響

ストレスは身体にも影響を及ぼします。頭痛、肩こり、胃痛、食欲不振、不眠などの症状が現れることがあります。睡眠不足が続くと、疲労が蓄積し、イライラが大きくなって、いつも以上につらく感じてしまう悪循環に陥ります。

業務への影響

研究によると、薬剤師が仕事でストレスを抱えていたり、仕事を辞めたいと感じていたりすると、重大なミスが起きやすくなるという報告があります。

引用元:一般社団法人日本薬局学会「保険薬剤師における職業性ストレスとインシデントとの関連性」

ストレスが調剤ミスなどのインシデントにつながる可能性があるため、適切にストレスを管理することは、患者の安全を守る上でも重要です。

転職という選択肢

 

職場環境の改善やストレス解消法を試しても状況が変わらない場合、転職を検討することも有効な選択肢です。ここでは、転職がストレス解決にどう役立つか説明します。

転職でストレスが解消できるケース

薬剤師のストレスの原因である「人間関係」「業務内容」「待遇」「ノルマ」は、業種・職場によって大きく異なります。そのため、転職して職場環境を変えれば、問題を一気に解決できる可能性があります。

例えば、人間関係が原因であれば、新しい職場で一からスタートすることで、過去のしがらみから解放されます。ノルマへのストレスが大きい場合は、ノルマのない職場を選ぶことで、プレッシャーから解放されます。

転職を検討すべきタイミング

以下のような状況にある場合は、転職を真剣に検討するタイミングかもしれません。

  • ストレスが大きすぎて心身に不調が出ている
  • 職場での改善努力をしたが状況が変わらない
  • 職場に行くことを考えるだけで強い不安や恐怖を感じる
  • 異動が不可能な単店舗の職場である
  • 待遇やノルマなど、企業の仕組み自体に問題がある

転職活動のポイント

転職を決意したら、まずは転職エージェントに相談してみることをおすすめします。薬剤師専門の転職エージェントは、公開・非公開の求人情報を豊富に持っており、あなたの希望条件に合った職場を見つけるサポートをしてくれます。

登録したからといって即座に転職しなければならないわけではありません。「こういう求人もあるのか」という候補を見つけるだけでも、心が軽くなる可能性があります。また、専門のキャリアアドバイザーが応募書類・面接のアドバイス、面接スケジュールの調整、条件交渉など幅広くサポートしてくれるので、安心して転職活動を進められます。

まとめ

 

薬剤師の約8割が何らかのストレスを抱えており、その原因は人間関係、業務量、給与待遇、ノルマなど多岐にわたります。適度なストレスは成長の糧になりますが、過剰になれば心身を疲弊させ、仕事にも私生活にも悪影響を及ぼします。まずは職場環境の改善や、プライベートでのストレス解消法を試してみましょう。それでも状況が改善しない場合は、転職という選択肢も検討してください。あなたに合った働き方を見つけることが、長く薬剤師として活躍するための鍵となります。

当社の薬剤師転職支援サービスでは、専門のキャリアアドバイザーがあなたの希望や悩みをじっくりヒアリングし、最適な職場をご紹介します。ストレスの少ない職場で、あなたらしく働きませんか?まずはお気軽にご相談ください。

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監修 薬進キャリアサポート代表エージェント
キャリアコンサルタント

田井 靖人

2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。 座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。

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