薬剤師として働きながら育児や家庭との両立を考えている方にとって、時短勤務は重要な選択肢です。
2009年の育児・介護休業法改正により義務化された短時間勤務制度は、3歳未満の子どもを育てる薬剤師が1日6時間勤務を選択できる制度です。
本記事では、時短勤務の法的要件から実際の働き方、年収への影響、職場選びのポイントまで、現役薬剤師が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
薬剤師の時短勤務とは?基礎知識を理解する
時短勤務制度の概要と、薬剤師業界における実態について解説します。まずは制度の基本的な仕組みと、法律で定められた要件を確認しましょう。
短時間勤務制度(時短勤務)の定義
短時間勤務制度とは、育児・介護休業法に基づき、3歳未満の子どもを養育する労働者が希望した場合に、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮できる制度です。2009年の育児・介護休業法改正により、事業主に対して短時間勤務制度の導入が義務化されました。
出典:厚生労働省「育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度の概要」
時短勤務の対象となる条件
短時間勤務制度の対象となるには、以下のすべての条件を満たす必要があります。
・3歳に満たない子を養育する労働者であること
・1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
・日々雇用される労働者でないこと
・短時間勤務制度が適用される期間に現に育児休業をしていないこと
・労使協定により適用除外とされた労働者でないこと
有期契約の労働者であっても、上記の要件を満たせば時短勤務の対象となります。
適用除外となるケース
労使協定により、以下の労働者は短時間勤務制度の対象外とすることができます。
・その事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
・業務の性質または業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
ただし、対象外となる労働者に対しては、事業主は代替措置(育児休業に関する制度に準ずる措置、フレックスタイム制度、始業・終業時刻の時差出勤など)を講じる必要があります。
薬剤師業界における時短勤務の実態
厚生労働省の令和2年度雇用均等基本調査では、育児のための短時間勤務制度がある事業所割合は68.0%となっています。
出典:厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」
薬剤師の求人を見ると、時短勤務制度が整っている企業が多いことがわかります。パートタイムでも産休・育休制度や子育てしながら働くママをサポートする福利厚生が充実した企業も少なくありません。
時短勤務で働く薬剤師の働き方パターン
正社員、パート、派遣など、雇用形態ごとの時短勤務の特徴と実際の働き方について解説します。
正社員として時短勤務を利用する
正社員として時短勤務を利用する場合、育児・介護休業法で定められている「子どもが3歳になるまでは時短勤務が可能」「1日の所定労働時間は原則6時間」という内容に従って勤務します。
正社員時短勤務のメリット
雇用の安定性が高い
社会保険や福利厚生が充実
キャリアの継続性を保てる
将来的なフルタイム復帰がしやすい
正社員時短勤務の注意点
時短勤務制度は転職直後には利用できません。基本的には「入社後1年を経過していない労働者は時短勤務ができない」というルールがあります。ほとんどの会社で時短勤務の利用者として対象にしているのは「入社して1年以上働いている方」です。
パートタイムで働く
パートタイムは、正社員の時短勤務とは異なり、最初から勤務時間を短く設定して働く雇用形態です。時短になる分、収入は減りますが、時間にゆとりが生まれることのメリットも大きい働き方です。
派遣薬剤師として働く
薬剤師の派遣社員はパートに比べると時給が高い傾向にあり、時給3,000円前後の求人は少なくありません。中には時給4,000円以上の求人も見つかることがあります。
派遣薬剤師のメリット
パートより高時給で働ける
勤務時間や日数を柔軟に調整できる
わずらわしい人間関係に縛られにくい
派遣会社が条件交渉をサポート
派遣薬剤師の注意点
契約期間が決められている
同じ職場で長期的に働けない場合がある
経験者であることが求められるケースが多い
短時間正社員制度という選択肢
短時間正社員という制度を導入している会社も増えています。通常の正社員の所定労働時間が週40時間のところ、短時間正社員は週35時間や週32時間など短くなり、それ以外は通常の正社員と全く変わりません。
短時間正社員の制度があれば、短時間勤務制度が何歳まで利用可能か気にする必要もなく、長期的なキャリア形成が可能になります。
時短勤務が収入に与える影響と対策
時短勤務を選択すると、どの程度収入が減少するのか、また収入を最大化するための方法について解説します。
時短勤務による給与の変化
短時間勤務制度を利用した場合、働かなかった時間についての賃金が発生しないため、事業主は働いた時間に見合った賃金を労働者に支払うこととなります。
フルタイムから時短勤務への給与変化例
フルタイム勤務(8時間):月給35万円の場合
時短勤務(6時間):月給約26万円(75%)
削減額:月約9万円、年間約108万円
ただし、賞与の算定に当たって勤務日数を考慮する事業所である場合、短時間勤務制度によって短縮された時間分を算定に含まないことは不利益な取扱いとされることはありません。
時短勤務でも高収入を維持する方法
1. 高時給の職場を選ぶ
パート薬剤師の時給は地域によって大きく異なり、都市部よりも薬剤師不足の地方のほうが高時給になる傾向があります。
2. 土日・夜間勤務を活用する
土日祝日や17時以降、深夜帯などの人手不足になりやすい時間帯は、時給がアップする傾向があります。労働基準法では、22時から翌5時までの深夜勤務には割増賃金の支給が義務付けられています。
3. 時給交渉を行う
最低でも半年以上働き、勤め先で必要な人材であることをアピールし、直接時給アップの交渉を行うことで、時給100円~200円アップが見込めます。
扶養内で働く場合の年収の壁
パート薬剤師として扶養内で働く場合、以下の「年収の壁」を意識する必要があります。
年収の壁と社会保険・税金の関係
106万円の壁
一定の条件下で社会保険加入が必要
所定労働時間が週20時間以上
月収が8万8,000円以上
雇用の見込みが2か月を超える
学生ではない
従業員(厚生年金の被保険者数)が51人以上
130万円の壁
扶養から外れ、自身で社会保険に加入
160万円の壁(旧103万円)
所得税が発生し始めるライン
年収130万円以内であれば扶養内となり、社会保険料の負担がありません。年収130万円が、社会保険の加入ラインとなります。
職場別|薬剤師の時短勤務の実態
調剤薬局、ドラッグストア、病院など、職場ごとの時短勤務の特徴と働きやすさについて解説します。
調剤薬局での時短勤務
調剤薬局は比較的時間の融通がききやすく残業も少ない職場が多いため、小さな子どもがいるママ薬剤師でも働きやすい環境といえます。シフト制や時短勤務が可能な職場であれば、家庭と仕事の両立も図りやすいでしょう。
ドラッグストアでの時短勤務
ドラッグストアの店舗数は年々増加傾向にあり、人手不足も継続しています。特に薬剤師数が少ない地方を中心に高時給で募集されています。
病院での時短勤務
病院で働くパート薬剤師の時給相場は1,800~2,200円程度で、調剤薬局やドラッグストアと比べると低い水準となっています。これは正社員同様、多くの病院で人件費削減を強いられていることや、薬剤師よりも医師や看護師の人材確保の優先度が高いことが原因でしょう。
企業(医薬品卸・管理薬剤師)での時短勤務
薬剤師として企業へ転職するのは、雇用形態を問わず難易度が高いとされています。しかし医薬品卸企業では、倉庫で薬の品質管理をする管理薬剤師をパートで雇用するケースもあります。
企業での勤務は求人数が少ないものの、ある程度の年収が見込める職場です。
時短勤務を成功させる職場選びのポイント
時短勤務を希望する薬剤師が、働きやすい職場を見つけるための具体的なチェックポイントを解説します。
複数薬剤師体制の職場を選ぶ
急な休みや時間調整に対応しやすい環境が大切です。「一人薬剤師」体制は緊急時の対応が難しいため注意しましょう。
時短勤務の実績がある職場を選ぶ
過去に時短勤務をしていた人がいるか、ほかに育児中の薬剤師がいるかなどの職場選びも重要です。制度への理解が浸透していない企業だと人間関係のトラブルは起きやすいです。
福利厚生と支援制度を確認する
チェックすべき福利厚生
産休・育休制度の充実度
時短勤務の利用可能期間(3歳以降も可能か)
託児所の有無(企業内保育施設)
看護休暇の取得しやすさ
復職支援プログラムの有無
通勤距離と勤務時間の柔軟性
通勤距離の重要性
保育園の送迎時間を考慮した勤務地選び
緊急時にすぐに駆けつけられる距離
通勤時間が育児時間を圧迫しないか
勤務時間の柔軟性
始業・終業時刻の調整が可能か
フレックスタイム制度の有無
短時間正社員制度の導入状況
時短勤務後のキャリアパスを考える
短時間正社員の制度があれば、短時間勤務制度が何歳まで利用可能か気にする必要もなく、子どもの成長に合わせて勤務時間を柔軟に調整できます。
時短勤務を実現するための転職戦略
時短勤務を希望する薬剤師が、理想の職場を見つけるための具体的な転職方法について解説します。
時短勤務可能な求人の探し方
1. 薬剤師専門の転職サイトを活用する
薬剤師向けの転職エージェントを活用するのも有効な手段です。エージェントは企業の情報に精通しているため、時短勤務や子育て支援制度などの福利厚生について多くの情報を持っており、時短勤務についても適切なアドバイスをしてくれる可能性があります。
2. 企業の採用サイトを直接確認する
大手薬局やドラッグストアチェーンは、自社の採用サイトで時短勤務制度について詳しく記載していることが多いです。
3. ハローワークや地域の求人情報を活用する
地方の調剤薬局や個人経営の薬局は、地域のハローワークや新聞の折込広告で求人を出している場合があります。
4. 知人の紹介やネットワークを活用する
実際に時短勤務をしている薬剤師からの情報は、職場の雰囲気や制度の利用しやすさを知る上で非常に有益です。
面接で確認すべきポイント
時短勤務に関する質問例
現在、時短勤務を利用している薬剤師は何名いますか?
時短勤務の具体的な勤務時間はどのように設定されていますか?
子どもの急な発熱などで休む場合の対応は?
時短勤務からフルタイムへの復帰実績はありますか?
時短勤務中の評価制度はどうなっていますか?
時短勤務を前提とした転職の注意点
転職前に確認すべき事項
入職後1年間は時短勤務制度を利用できない場合が多い
試用期間中の制度利用可否
時短勤務の利用可能期間(3歳まで?小学校就学まで?)
復職支援プログラムの有無
まとめ
薬剤師の時短勤務は、育児と仕事を両立するための重要な制度です。育児・介護休業法により3歳未満の子どもを育てる薬剤師は原則6時間勤務が可能で、正社員だけでなくパートや派遣という選択肢もあります。
時短勤務を成功させるには、複数薬剤師体制や福利厚生が充実した職場選びが重要です。高時給のパート勤務や短時間正社員制度を活用することで、収入とワークライフバランスの両立も可能になります。
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田井 靖人
2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。
座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。