薬剤師の転職市場は年々変化しており、「資格があれば転職できる」という時代は終わりを迎えています。厚生労働省の調査によると、医療・福祉業界の3年以内離職率は38.0%に達しており、多くの薬剤師が転職後に何らかの後悔を経験しています。本記事では、実際の失敗事例とデータに基づき、転職を成功に導く具体的な方法を解説します。
薬剤師転職の失敗率と現状データ
半数以上の薬剤師が転職に後悔している現実
転職経験のある薬剤師の53.1%が「転職を後悔した経験がある」と回答しています。
この数値は決して低くなく、薬剤師の転職には慎重な準備が必要であることを示しています。
年代別に見ると、20~30代では36.4%であるのに対し、40代以上では過半数を超えています。これはキャリアが長くなるにつれて転職回数も増え、失敗経験も蓄積されていくためと考えられます。
出典:薬キャリ「薬剤師の転職実態調査Vol.8 転職失敗編」
薬剤師の有効求人倍率の推移
厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、薬剤師の過去5年間の平均有効求人倍率は3.48倍となっています。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年4月分)について」
特に求人数が増加する時期は以下の通りです。
1~3月:年度末退職に伴う求人増加により、最も好条件の求人が出やすい時期
7~9月:夏季賞与後の転職者増加に伴う求人増
ただし、有効求人倍率が高いからといって安易に転職すると失敗するリスクが高まります。市場の動向を理解したうえで、計画的な転職活動が求められます。
薬剤師転職で失敗する5つの典型パターン
ここでは、実際に転職で失敗した薬剤師の事例をもとに、よくある失敗パターンを分析します。
パターン1:人間関係のミスマッチ
転職を後悔する理由として最も多いのが「人間関係」です。特に以下のようなケースが報告されています。
上司・経営層との関係
・面接時は「患者のため」「地域のため」と語っていたのに、実際は売上最優先の姿勢
・法律違反の指示(他の薬剤師の処方箋の薬歴記入を強要など)
・冷たい対応や理不尽な要求
同僚との関係
・遅刻やスマホ使用など勤務態度の問題
・自発的に動かない、連休申請だけは早いなど自分勝手な行動
対策のポイント
離職率のチェック
職場見学での従業員の様子観察
転職エージェントによる内部情報収集
パターン2:年収・昇給制度の誤解
年収に関する失敗では、特に「昇給率の低さ」を嘆く声が多く見られます。
年度の年収だけでなく、昇給制度や昇給率を確認することで、長期的なキャリアを見据えた判断が可能になります。
パターン3:業務内容のイメージギャップ
「OTC対応はないと言われたのに実際はあった」「広報の仕事ができると聞いていたのに経営悪化でできなくなった」など、業務内容のミスマッチは転職失敗の大きな要因です。
求人票には細かい業務フローや経営状況までは記載されていないため、以下の確認が必要です。
・何科の薬が多いか
・1日あたりの処方箋枚数
・薬剤師の人数とシフト体制
・薬歴の数と残業への対応
パターン4:雇用条件の認識違い
契約内容と実際の労働条件が異なるケースも多く報告されています。
・週4~5日勤務の約束が週5日固定になった
・残業代が支払われない
・有給休暇を付与されない
・近隣店舗への配属約束が遠方の新店舗に変更された
防止策
内定通知書と労働条件通知書の徹底確認
口約束ではなく書面での確認
不明点は必ず質問し、回答を書面で残す
パターン5:情報収集不足
情報収集手段が企業ホームページや求人票のみの場合、表面的な情報しか得られず、入社後のミスマッチにつながります。
多角的な情報収集が必要です。
・薬剤師転職サイトのキャリアアドバイザーからの内部情報
・職場見学での現場確認
・口コミサイトでの評判チェック
・地域の薬剤師ネットワークからの情報
転職失敗を防ぐ10のステップ
薬剤師転職のプロであるキャリアアドバイザーへのインタビューと実際の失敗事例から導き出した、転職成功のための具体的なステップを紹介します。
ステップ1:自己分析で希望条件を明確化する
転職活動を始める前に、まず自己分析を行い、希望条件を明確にします。
薬剤師の業務は知識だけでなく、患者への説明やアドバイスも重要です。これまでの患者とのやり取りを振り返り、「やりがいを感じたこと」「苦手だったこと」を整理しましょう。
ステップ2:キャリアプランを具体的に立てる
5年後、10年後の自分をイメージし、そこから逆算してキャリアプランを立てます。
例えば、早期に管理職を目指すなら大手より小規模薬局のほうが実現しやすい傾向があります。目標に合わせた転職先選びが重要です。
ステップ3:現職での改善可能性を検討する
転職活動を始める前に、現職場で不満を解消できないか一度考えてみましょう。
実際に、認定薬剤師を持っているのに声がかからなかった薬剤師が、上司に要望を出したことで管理薬剤師のポストが作られたケースもあります。
ステップ4:希望条件の優先順位を決める
すべての希望を満たす求人を見つけるのは困難です。MUST条件(絶対に譲れない)とWANT条件(できれば叶えたい)に分けて整理します。
優先順位が明確でないと、「ワークライフバランスを重視したかったのに、会社の成長性に惹かれて選んだ結果、研修が多すぎて不満」といったミスマッチが起こります。
ステップ5:職場見学で現場をチェックする
面接時には必ず職場見学を依頼しましょう。以下のポイントを確認します。
「この人たちと一緒に働きたくない」と感じたら、人間関係による失敗を未然に防げます。転職エージェントを利用している場合は、職場見学の日程調整を代行してもらえます。
ステップ6:面接で具体的に確認する
面接では、求人票に記載されていない具体的な情報を確認します。
あいまいな回答しか得られない場合は、転職後のギャップが生じる可能性が高いため注意が必要です。
ステップ7:内定通知書と労働条件通知書を徹底確認
内定が出たら、焦って承諾せず、必ず書面を確認します。
内定通知書と労働条件通知書の内容が異なる場合や、面接時の話と齟齬がある場合は、必ず理由を確認してください。転職エージェントを利用している場合は、条件交渉を代行してもらえます。
ステップ8:複数の情報源から情報を収集する
転職エージェントの話を鵜呑みにして失敗したケースも報告されています。情報ソースを一つに絞らず、複数の転職エージェントに登録することで、情報の量と質を高めます。
ステップ10:薬剤師専門の転職サイトを活用する
薬剤師転職において、専門性の高い転職サイトの活用は成功率を大きく高めます。
特に、働きながらの転職活動では時間が限られるため、プロのサポートを受けることで効率的に進められます。
転職失敗後の対処法
万が一転職に失敗してしまった場合の対処法も知っておきましょう。
すぐに再転職すべきか、我慢すべきか
すぐに再転職を検討すべきケース
労働条件が契約と明らかに違う(労働基準法違反の可能性)
法律違反の業務を強要される
パワハラ・セクハラがある
心身の健康に悪影響が出ている
一定期間(6ヶ月~1年)様子を見るべきケース
人間関係に馴染めない(時間とともに改善する可能性)
業務に慣れていない(スキル不足が原因の場合)
職場の雰囲気が想像と違う(主観的な不満)
紹介予定派遣という選択肢
転職失敗を繰り返したくない場合、「紹介予定派遣」という働き方も検討価値があります。
紹介予定派遣のメリット
3~6ヶ月間は派遣社員として「お試し勤務」
職場の実態を把握してから正社員になるか判断できる
本人と派遣先の双方が合意すれば正社員へ移行
ミスマッチのリスクを最小限に抑えられる
実際に働いてから判断できるため、人間関係や業務内容のギャップによる失敗を防げます。
まとめ
薬剤師の転職では、半数以上が何らかの後悔を経験しています。失敗を防ぐには、十分な自己分析と情報収集、そして計画的な転職活動が不可欠です。本記事で紹介した10のステップを実践し、内定通知書の確認や職場見学を徹底することで、転職成功率は大きく高まります。特に薬剤師専門の転職サイトを活用することで、求人票だけでは分からない内部情報を得られ、より確実な転職が実現できます。焦らず、慎重に、そして戦略的に転職活動を進めていきましょう。
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田井 靖人
2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。 座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。