薬剤師の働き方として在宅勤務・リモートワークへの関心が高まっています。育児や介護との両立、ワークライフバランスの実現を目指す中で「薬剤師でも在宅で働けるのか」と疑問に思う方は少なくありません。結論から申し上げると、薬剤師の在宅勤務は一部で実現可能ですが、求人は限定的で誰もがすぐに選べる働き方ではありません。本記事では、薬剤師が在宅勤務できる具体的な仕事内容、メリット・デメリット、必要なスキル、そして実現するための方法を詳しく解説します。
薬剤師の在宅勤務の現状と可能性
在宅勤務可能な業務は限定的
薬剤師の在宅勤務は制度面では一定の整備が進んでいますが、実際の求人数は依然として限られています。調剤や対面での服薬指導といった薬剤師の主要業務は、法令上対面での実施が原則となっているため、完全リモートでの実施は困難です。
2022年9月の薬機法施行規則改正により、オンライン服薬指導が薬局外からも可能になりましたが、これはあくまで一時的・特別な事情がある場合を想定したものです。厚生労働省の通知によれば、薬剤師が自宅からオンライン服薬指導を行うケースは、家族の体調不良や感染症対策など限定的な状況が前提とされています。
(参考:厚生労働省「オンライン服薬指導の実施要領について」)
フルリモートとハイブリッド型の違い
在宅勤務には「フルリモート」と「ハイブリッド型」の2つのスタイルがあります。フルリモートは完全に自宅で業務を行う働き方ですが、薬剤師の場合はこのような求人は極めて稀です。
一方、ハイブリッド型は週1〜2日の在宅勤務を組み合わせた働き方で、薬剤師の在宅勤務としてはこちらが主流となっています。ただし、同職種での経験が必須であったり、年収が比較的低めに設定されていたりと、一定の条件が付随することが多い傾向にあります。
薬剤師が在宅でできる具体的な仕事
メディカルライター
メディカルライターは医療に関する専門的な文書や記事を執筆する仕事で、在宅勤務の可能性が比較的高い職種です。業務内容は大きく3つに分類されます。
医薬品関連文書のライティングでは、治験関連文書や医薬品の承認申請資料、医学論文などを作成します。製薬企業や医療機器メーカー、医療系専門誌などから依頼を受け、医療従事者向けの専門性の高い文章を執筆します。
一般向け医療記事の執筆は、健康や医薬品に関する情報を一般の方向けに分かりやすく伝える仕事です。WebメディアやSNS、雑誌など様々な媒体で活躍の場があります。
CMC薬事ライターは、医薬品の製造・品質管理に関する文書や、治験実施計画書などを作成する高度な専門職です。英語力と薬事規制への深い理解が求められますが、その分給与水準も高い傾向にあります。
医薬翻訳業務
医薬翻訳は治験関連文書や英語論文を日本語に翻訳したり、逆に日本語から英語に翻訳したりする業務です。企業に所属する場合とフリーランスとして働く場合があります。
医療系の翻訳は専門用語が多く、正確な知識が不可欠なため、薬剤師の資格が活きる分野です。さらにJTA公認翻訳専門職資格や治験実務英語検定、TOEIC750点以上などの資格・スコアがあると、仕事を獲得しやすくなります。
医薬品情報関連業務(コールセンター)
製薬会社やOTCメーカーの問い合わせ窓口として、医療従事者や一般消費者からの質問に対応する仕事です。医療用医薬品のメーカーであれば、医師や薬剤師からの専門的な問い合わせに対応し、OTC医薬品のメーカーでは一般消費者の健康相談に応じます。
電話やチャット、メールを通じた対応が中心となるため、在宅勤務との親和性が高い業務です。24時間対応を行う企業も増えており、今後さらに需要が高まると予想されます。
安全性情報管理(ファーマコビジランス)
ファーマコビジランス(PV)は、医薬品の安全性情報を収集・分析し、必要に応じて規制当局や医療関係者に報告する業務です。基本的には企業に所属して働きますが、在宅勤務を認めている企業も存在します。
製造販売後調査(PMS)も類似の業務で、発売後の医薬品の有効性や安全性を追跡調査します。いずれも英語力、論理的思考力、ExcelやデータベースなどのIT系スキルが求められます。
データマネジメント
治験などで収集されたデータの入力・管理・修正を行う仕事です。Excelや専用ツールを使った作業が中心で、在宅勤務が可能な求人もあります。ただし完全在宅のケースは稀で、特に未経験者の場合は出社がメインとなる傾向があります。
臨床開発モニター(CRA)
新薬開発における治験が、治験実施計画書や関連法規に沿って適切に行われているかを確認する業務です。文書作成やデータ管理などは在宅で行えるケースもありますが、週1〜2日の出社が求められることが多い傾向にあります。
治験コーディネーター(CRC)の経験や、TOEIC700点以上の英語力があると有利です。
オンライン学習講師
薬学生向けの国家試験対策講座や、薬剤師向けのeラーニング講師として働く方法です。ZoomやYouTubeなどを活用したオンライン授業が中心となります。
教える内容によっては最新の医療情報を常にアップデートする必要があり、学習計画の作成やフォローアップにも時間を要します。企業に所属する場合とフリーランスとして働く場合があります。
在宅勤務のメリットとデメリット
在宅勤務のメリット
通勤時間の削減とワークライフバランスの向上が最大のメリットです。通勤にかかる時間や体力的負担がなくなり、その分を家事や育児、自己研鑽に充てることができます。
柔軟なスケジュール管理も魅力です。業務の進め方やスケジュールに一定の裁量を持てることが多く、自律的に働ける方にとってはやりがいを感じやすい環境といえます。
集中できる環境の構築が可能な点も見逃せません。自宅であれば照明や温度、椅子や机など、自分にとって最適な作業環境を整えられます。職場での突発的な呼び出しや電話応対も少なく、業務に集中しやすいというメリットがあります。
新しいスキルとキャリアの幅の拡大も期待できます。医薬翻訳やメディカルライターなど、調剤業務とは異なるスキルを身に付けることで、将来的により幅広い分野でのキャリアアップにつながる可能性があります。
在宅勤務のデメリット
医療従事者としてのやりがいが実感しにくい点は大きなデメリットです。患者さまとの直接的なやりとりや、同僚との何気ない会話から得られる充実感は、在宅勤務では得られにくくなります。
実務経験を積みにくいことも注意が必要です。臨床現場での経験を積めない仕事が多いため、コミュニケーション能力や臨機応変な対応力は養われにくくなります。将来再び対人業務に復帰したい場合、実務経験のブランクがネックになる可能性があります。
自己管理の難しさも課題です。周囲の目がない環境では、業務の進捗管理やモチベーション維持を自分で行う必要があります。仕事とプライベートの区別が曖昧になりやすく、長時間労働や逆にサボりがちになるリスクがあります。
収入の不安定性にも留意が必要です。特にフリーランスとして働く場合、仕事が単発になったり、最初は報酬が低い案件から始まったりすることが多く、安定した収入を得るまでに時間がかかる可能性があります。
在宅勤務に向いている人・向いていない人
在宅勤務が向いている人の特徴
自己管理能力が高い人は在宅勤務に適しています。外部からの管理が少ない環境でも、自分で目標を設定し計画的に業務を進められる方は成果を出しやすいでしょう。
コミュニケーション能力が高い人も向いています。対面での何気ない会話ができない分、メールやチャットで意図を正確に伝え、誤解なくやり取りできるスキルが重要です。
自ら学び続ける意欲がある人にもおすすめです。周囲に気軽に質問できる環境がないため、業務に必要な知識やスキルを積極的に学び続ける姿勢が求められます。
一定のスキルや経験を持つ人は有利です。特にDI業務の経験、英語力(TOEIC700点以上)、文章作成能力などがあると、選べる求人の幅が広がります。
在宅勤務が向いていない人の特徴
人との関わりがモチベーションになる人には向かない可能性があります。患者さまとのコミュニケーションや同僚との雑談から充実感を得るタイプの方は、孤独感や物足りなさを感じやすいでしょう。
薬剤師らしい仕事がしたい人も注意が必要です。在宅勤務では調剤や対面での服薬指導といった典型的な薬剤師業務はできないため、そうした仕事にやりがいを感じる方には不向きかもしれません。
スキルや実務経験に自信がない人は苦戦する可能性があります。在宅勤務可能な求人の多くは「薬剤師+α」のスキルや知識を求める傾向にあるため、選択肢が限られてしまいます。
収入やキャリアに安定を求める人も慎重な検討が必要です。特にフリーランスとして働く場合、収入の変動が大きく、キャリアパスも不明確になりがちです。
在宅勤務に必要なスキルと資格
基本的なPCスキル
在宅勤務では、WordやExcelなどの基本的なソフトウェアの操作に加え、チャットツール、メール、オンライン会議システムの使用が日常的に求められます。データ入力・整理、文書作成、情報検索などが主な業務となることが多く、これらに支障のないレベルのPCスキルは必須です。
英語力
TOEIC700点以上や、英語の論文・資料を読み解くスキルがあると、医薬翻訳やメディカルライターなど、より専門性の高い職種に就くチャンスが広がります。英語力は必須ではありませんが、応募できる求人の幅を大きく広げる重要なスキルです。
コミュニケーション能力
非対面でのコミュニケーションが中心となるため、メールやチャット、電話、Web会議などで相手に分かりやすく正確かつ簡潔に伝える力が重要です。医師や看護師、エンジニアなど異なる職種との連携も求められるため、相手に応じた柔軟な対応や言葉選びが必要になります。
実臨床の知識・経験
病院や調剤薬局での豊富な実務経験や医薬品情報の知識は、医薬品情報の整理や文書作成などの業務で重要視されます。特にDI業務の経験がある方は、情報収集・評価・整理に慣れているとみなされ、一定の即戦力として扱われることがあります。
在宅勤務を実現するための方法
スキルアップと実務経験の蓄積
在宅勤務可能な求人は競争率が高いため、「この人なら任せられる」と思ってもらえる特筆できるスキルや強みを身に付けることが重要です。まずは調剤薬局や病院などの現場で実務経験を積み、処方鑑査・服薬指導・トラブル対応といった経験を通して判断力・応用力を養いましょう。
同時に、英語の学習や文章作成スキルの向上など、「現場での経験+αのスキル習得」を意識して取り組むことが、将来の選択肢を広げる近道になります。
転職サイト・転職エージェントの活用
薬剤師の在宅ワークは求人数が少なく人気も高いため、日々情報を収集し早めに応募することが重要です。しかし、仕事や家庭で忙しい中、常に求人情報をチェックし続けるのは現実的に難しいでしょう。
そこで、薬剤師専門の転職エージェントを活用する方法があります。転職エージェントは、スキルや希望に合った求人を選んで提案してくれるだけでなく、在宅勤務が可能な求人の有無、企業が求めるスキル・人物像、実際の働き方など、個人では得られないリアルな情報も提供してくれます。
また、「まずは在宅ワークが可能な選択肢があるかを知りたい」という段階でも無料で相談できるため、気軽に活用してみることをおすすめします。
フリーランスとして副業から始める
いきなり在宅勤務に切り替えるのではなく、現職を続けながら副業としてメディカルライターや医薬翻訳などに挑戦する方法もあります。クラウドソーシングサイトで小規模な案件から始め、自分に合うかどうか試してから本格的な転職を検討するという段階的なアプローチも有効です。
ただし、副業を始める際は必ず勤務先の就業規則を確認し、副業が認められているか、時間帯や業務内容に制限がないかをチェックしましょう。また、年間所得が20万円を超える場合は確定申告が必要となる点にも注意が必要です。
在宅勤務以外のワークライフバランス実現方法
時短勤務・パート勤務
完全な在宅勤務にこだわらず、勤務時間が短い職場を選ぶことで、家庭やプライベートとの両立を実現できます。「9:00〜17:00」「10:00〜16:00」などの時間帯で働ける職場であれば、育児や家事とのバランスも取りやすくなります。
福利厚生が充実している職場
育児休業や介護休暇、時短勤務制度、看護休暇などの制度が整っており、実際に利用しやすい環境が整っている企業を選ぶことも重要です。制度があるだけでなく、上司や職場全体がその制度の利用に前向きかどうかという「風土」も確認しましょう。
シフトの融通が利く職場
急な発熱や学校行事など、特に育児中は予定外の休みが必要になることが多いため、シフトの融通が利く職場や、スタッフ間で助け合う文化が根づいている職場を選ぶと安心です。「子育て中のスタッフが多い」「上司が子育てに理解がある」といった環境では、心理的な負担も少なく働けます。
まとめ
薬剤師の在宅勤務は一部で実現可能ですが、求人は限定的で誰もがすぐに選べる働き方ではありません。メディカルライター、医薬翻訳、コールセンター、ファーマコビジランスなど、薬剤師の知識を活かせる在宅可能な仕事は存在しますが、いずれも「薬剤師+α」のスキルが求められる傾向にあります。在宅勤務を実現するには、まず現場で実務経験を積み、英語力や文章作成能力などのスキルを磨くことが重要です。また、薬剤師専門の転職エージェントを活用し、最新の求人情報をいち早く入手することも効果的です。在宅勤務にこだわらず、時短勤務や福利厚生が充実した職場を選ぶことでも、ワークライフバランスは実現できます。自分に合った働き方を見つけるために、まずは転職相談から始めてみてはいかがでしょうか。
当社では、薬剤師専門の転職コンサルタントが、あなたのキャリアプランや希望条件に合わせて最適な求人をご提案いたします。在宅勤務可能な求人や、ワークライフバランスを重視した職場探しもサポートします。無料相談は随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
まずはキャリアの可能性を知る相談から
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田井 靖人
2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。 座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。