薬剤師の転職が厳しいと言われる理由と成功するための実践戦略

薬剤師 転職 厳しい

「薬剤師の転職は厳しくなった」という声を耳にしたことはありませんか?実際、厚生労働省のデータによると、2015年の有効求人倍率7.18倍から2021年には2.68倍へと大幅に低下しています。しかし、全職種平均と比較すると依然として高く、適切な戦略を立てれば転職成功は十分可能です。

本記事では、薬剤師の転職市場の最新動向から、年齢別・職場別の難易度、転職を成功させる具体的な方法まで、信頼できるデータに基づいて徹底解説します。

薬剤師の転職が「厳しい」と言われる理由


薬剤師の転職市場は以前と比べて変化しており、「資格があれば簡単に転職できる」時代ではなくなってきています。ここでは、転職が厳しいと言われる具体的な理由を統計データとともに解説します。


有効求人倍率の大幅な低下


厚生労働省「一般職業紹介状況」によると、薬剤師の有効求人倍率は年々低下しています。2015年から2021年にかけて、パート除く常用で7.18倍から2.68倍へ、常用的パートで5.13倍から1.25倍へと変化しており、1人当たりの求人数が大幅に減少しています。
ただし、2021年の有効求人倍率2.68倍は、全職種の1.06倍と比較すると依然として高い水準を保っています。これは「転職先が全く見つからない」というほど厳しい状況ではないことを意味します。
データ出典: 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」


薬局人員の充足状況の改善


厚生労働省が2021年3月に実施した「薬剤師の需給動向把握事業における調査結果概要」によると、薬局の人員充足状況について「適切な人数を確保できている」が60.5%、「適切な人数より不足している」が19.4%という結果でした。
これは、かつての深刻な人手不足が徐々に緩和していることを示しています。薬剤師数の増加により、以前のような深刻な人材不足は解消されつつあります。
データ出典: 厚生労働省「薬剤師の需給動向把握事業における調査結果概要」令和3年3月 


診療報酬改定による採用ハードルの上昇


2年に一度の診療報酬改定により、薬局の経営環境は厳しさを増しています。厚生労働省の方針により、2024年の改定では門前薬局や大型チェーン薬局の調剤料が引き下げられ、調剤技術料も引き下げられました。
また、薬価は毎回マイナス改定が続いており、薬局が得られる利益は減少しています。このため、経営難に伴う採用ハードルが上がっており、以前よりも選考基準が厳しくなっています。

 

【年齢別】薬剤師転職の難易度と成功のポイント


薬剤師の転職は年齢によって難易度が大きく異なります。ここでは、年代ごとの転職市場の実態と成功のポイントを解説します。


20代〜30代:最も転職しやすい年代


20代から30代は薬剤師として最も転職しやすい年代です。新卒採用と同様に、若さと将来性が高く評価されます。長期的に働いてもらえる期待があり、人件費が比較的低く、企業の文化に馴染みやすい柔軟性があることが理由です。
調剤薬局、ドラッグストア、病院など、ほぼ全ての職場で採用されやすい年代です。製薬会社やMR、CRAなどの企業薬剤師へのチャレンジも可能です。


40代:経験重視の戦略的転職が必要


40代になると、一般職では転職がかなり難しくなりますが、薬剤師の場合はそこまで転職難易度は高くありません。豊富な経験や専門性をアピールできれば、高待遇での転職も期待できます。
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、40代薬剤師の平均年収は約603万円です。管理薬剤師としての店舗運営能力やマネジメントスキルが高ければ有利に働きます。
データ出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和5年


50代以降:難易度が大幅に上昇


50代になると、薬剤師の転職難易度が一気に上がります。特別なスキルがない限り、病院や製薬会社への転職はほぼ不可能になります。
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、50代薬剤師の平均年収は男性710.3万〜763.3万円、女性675.2万〜695.8万円と高額です。そのため、採用する側からみると人件費がかかり、若い薬剤師が優先的に採用される傾向があります。
中小規模の調剤薬局や地方のドラッグストア、管理薬剤師ポジションなど、50代の薬剤師を受け入れている企業や店舗に限定して転職先を探す必要があります。
データ出典: 厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」


60代以降:非常勤・パートでの活躍が中心


60代になると、定年退職がある年代です。厚生労働省の「薬剤師確保のための調査・検討事業」によると、60歳以上から非常勤薬剤師の割合が徐々に高くなっています。
薬剤師なら定年後も資格を活かして働くことは可能ですが、自分が希望する職場への転職はかなり難しいのが現状です。中小の調剤薬局(年齢不問の求人)、ドラッグストア(パートタイム)、嘱託職員としての再雇用などが選択肢となります。
データ出典: 厚生労働省「薬剤師確保のための調査・検討事業」

 

【職場別】転職難易度と採用されやすいポイント


薬剤師の転職難易度は職場によって大きく異なります。ここでは、主要な職場ごとの転職事情を解説します。


調剤薬局:比較的転職しやすいが規模で差がある


調剤薬局は年齢が高い方でも比較的転職しやすい職場です。厚生労働省「薬剤師確保のための調査・検討事業報告書」によると、年齢が高くなるにつれて薬局で働く薬剤師の数が多くなっていく傾向があります。
ただし、大手調剤薬局チェーンは新卒などの若い人材を積極的に採用する傾向が強く、40代後半からの転職は難しくなります。一方、中小・個人調剤薬局は人手不足のところが多く、経験を積んだ40代以降も需要があり、地方では50代も受け入れている薬局が多いのが実情です。

 

ドラッグストア:店舗数の多さから需要が高い


ドラッグストアは店舗数が多く、出店数が多いわりに薬剤師の数が追いついていないため、40代以降でも転職しやすい職場の一つです。
年齢よりも即戦力を重視する傾向があり、転職難易度は比較的低めです。ただし、OTC薬品のみの扱い、調剤併設などの店舗形態によって仕事内容が変わる点には注意が必要です。


病院:大病院は難しいが中小は可能性あり


厚生労働省の「現在時点における薬剤師偏在指標」調査によれば、すべての都道府県で医療需要に対する病院薬剤師数が充足していない状況です。特に青森県、秋田県、山形県では目標を大きく下回っており、地方では病院薬剤師不足が問題視されています。
大学病院・大規模病院は若手の育成に力を入れており、40代の転職は非常に難しい状況です。一方、中小規模病院・慢性期病院では薬剤師が不足しており、即戦力を求める傾向があるため、40代でも転職できる可能性があります。
データ出典: 厚生労働省「現在時点における薬剤師偏在指標」


製薬会社・企業薬剤師:厳しい年齢制限あり


製薬会社は年齢制限を設けられていることが多く、必要なスキルや経験が備わっていることを前提に、40代未満でなければ転職も厳しい状況です。
MR(医薬情報担当者)は基本的に40代未満、CRA(臨床開発モニター)は50代未満(特別なスキルがある場合を除く)でないと転職が難しいのが現状です。研究開発職は専門分野を学んだ修士以上の課程修了者が採用される傾向があり、最も狭き門となっています。

 

薬剤師の転職を成功させる実践戦略


転職市場が厳しくなっている今、戦略的なアプローチが成功の鍵となります。ここでは、転職を成功させるための具体的な方法を解説します。


専門資格・認定資格を取得する


対人業務への移行が進む中、専門性を証明する資格の重要性が高まっています。認定薬剤師、専門薬剤師、かかりつけ薬剤師、研修認定薬剤師などの資格取得が推奨されます。
特に後期高齢者が増加するこれからの社会では、在宅医療薬剤師やかかりつけ薬剤師といった専門資格を持つ薬剤師は、ますます需要が高まることが予想されます。


地方・ローカルエリアでの転職を検討する


厚生労働省の「現在時点における薬剤師偏在指標」によると、薬局薬剤師の偏在指標は全国ベースで1.08と目標を上回っていますが、福井県、富山県、鹿児島県など地方では偏在指標が目標を下回り、薬剤師不足の状態です。
都市部と地方では転職難易度が大きく異なり、地方では有効求人倍率が都市部より高く、年収が50万円以上高く提示される場合もあります。調剤未経験者でも転職しやすく、ラウンダーや管理薬剤師、僻地の薬局では一般勤務薬剤師より高年収が期待できます。
データ出典: 厚生労働省「現在時点における薬剤師偏在指標」


転職理由をポジティブに伝える


ネガティブな転職理由を伝えている人は、転職活動で苦戦しやすい傾向があります。「人間関係がうまくいかなかった」「ノルマが厳しかった」「残業が多かった」などのネガティブな理由は、「チーム医療を通じて患者様により貢献したい」「専門性を高めてかかりつけ薬剤師として活躍したい」「ワークライフバランスを整えて長期的にキャリアを築きたい」というようにポジティブに言い換えることが重要です。


管理薬剤師経験・マネジメントスキルをアピール


40代以降の転職では、管理薬剤師としての実務経験があれば大きく優遇されます。厚生労働省「管理薬剤師等の責務の内容」(2004年7月21日)によると、管理薬剤師には薬局の管理運営、従業員の監督、薬学の専門的な知識が必要な事例への対応、法令遵守の徹底などの責務が求められています。
50代であれば、ライフイベントでの離職の可能性は低いため、企業側としても安心して管理薬剤師を任せることができます。
データ出典: 厚生労働省「管理薬剤師等の責務の内容」


コミュニケーション能力を強化する


株式会社リクルートメディカルキャリアが薬剤師655人を対象に実施した調査によると、転職を考えるきっかけとして「業務負荷が高い」が最も高い割合となっていますが、職場選びで重視する条件は「給与条件」「休日・休暇」などの待遇面が上位でした。
しかし、採用側が重視するのはコミュニケーション能力や対人スキルです。対人業務への移行が進む中、患者様への丁寧な服薬指導、医師・看護師との円滑な連携、在宅医療における多職種連携、オンライン服薬指導への対応などのスキルが求められています。
データ出典: 株式会社リクルートメディカルキャリア「薬剤師の転職活動に関する動向調査」


非公開求人にアクセスする


好条件で人間関係も良好な求人は、一般には公開されないことが多いです。転職エージェントを利用することで、非公開求人にアクセスでき、高年収・好条件の求人、競争率が低い求人、職場の内部情報を事前に入手できます。
薬剤師の初めての転職活動で選ぶ方法は「転職エージェントの利用」が42%で1位となっており、約二人に一人が転職エージェントを利用しています。さらに、初めての転職で転職エージェントを利用した薬剤師の87%が、2回目以降も転職エージェントを利用しています。


希望条件に優先順位をつける


株式会社リクルートメディカルキャリアの調査によると、転職活動で苦労したことについて「希望条件に合う求人が見つからない」が46%を占めています。また、転職意向を持ちながら転職をしていない理由として「転職しても自分の希望条件は満たされそうにない」が最も高く29.0%を占めています。
すべての条件を満たす求人を見つけるのは困難です。絶対に譲れない条件、できれば実現したい条件、あれば嬉しい条件の順に優先順位を明確にすることで、現実的な転職活動が可能になります。
データ出典: 株式会社リクルートメディカルキャリア「薬剤師の転職活動に関する動向調査」

まとめ


薬剤師の転職市場は以前と比べて厳しくなっており、厚生労働省のデータでは有効求人倍率が2015年の7.18倍から2021年には2.68倍まで低下しています。しかし全職種平均と比較すると依然として高く、適切な戦略を立てれば転職成功は十分可能です。年齢別では40代までは比較的転職しやすく、50代以降は難易度が上がります。

職場別では調剤薬局やドラッグストアが転職しやすく、製薬会社は厳しい年齢制限があります。成功のカギは専門資格の取得、地方転職の検討、転職理由のポジティブな伝え方、そして転職エージェントの活用です。

厚生労働省の調査では薬局の60.5%が適切な人数を確保しており人手不足は緩和傾向にありますが、地方や病院では依然として薬剤師不足が続いています。希望条件に優先順位をつけ、現実的な転職活動を行うことで、理想の転職を実現できます。

 

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監修 薬進キャリアサポート代表エージェント
キャリアコンサルタント

田井 靖人

2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。 座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。

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