「薬剤師の給料は思ったより安い」と感じていませんか?6年間の薬学教育と国家試験を経て取得した資格なのに、期待していた収入とのギャップに悩む薬剤師は少なくありません。本記事では、薬剤師の年収が本当に安いのか、公的データで他職種と比較しながら検証します。さらに、給料が安いと感じる理由を解説し、具体的な年収アップの方法まで詳しく紹介します。
薬剤師の年収は本当に安い?データで見る実態
薬剤師の給料が安いかどうかを判断するには、客観的なデータが必要です。ここでは厚生労働省の公式統計をもとに、薬剤師の年収を全職種平均や他の医療職と比較して実態を明らかにします。
薬剤師の平均年収は599万円
厚生労働省が公表している「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の平均年収は599万3,200円です。この数字は、「きまって支給する現金給与額」の12カ月分と「年間賞与その他特別給与額」を合算したものです。
引用元:賃金構造基本統計調査 / 令和６年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種
国税庁の「令和4年分民間給与実態統計調査」における全職種の平均給与458万円と比較すると、薬剤師は約141万円高い水準にあります。この点から見れば、薬剤師の年収は決して安いとはいえません。
引用元:令和４年分 民間給与実態統計調査
医療職の中では3番目の年収水準
他の医療系職種と比較すると、薬剤師の立ち位置がより明確になります。同じく「令和6年賃金構造基本統計調査」のデータをもとに、主な医療職の平均年収を見てみましょう。
【医療職の平均年収比較】
- 医師:1,338万100円
- 歯科医師:1,135万5,200円
- 薬剤師:599万3,200円
- 助産師:580万5,600円
- 診療放射線技師:549万8,500円
- 保健師:521万2,400円
- 看護師:519万7,000円
- 臨床検査技師:504万3,400円
- 歯科技工士:454万3,600円
- 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・視能訓練士:444万1,500円
- 准看護師:417万1,700円
- 歯科衛生士:405万5,600円
引用元:賃金構造基本統計調査 / 令和６年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種
薬剤師は医師、歯科医師に次ぐ3番目の年収水準で、看護師や臨床検査技師よりも約80万〜95万円高くなっています。医療職全体で見れば、薬剤師の給料は上位に位置しています。
年代別・性別で見る薬剤師の年収格差
薬剤師の年収は、年代や性別によっても大きく変動します。厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、以下のような傾向があります。
【年代別の平均年収】
- 20〜24歳:349万円
- 25〜29歳:470万円
- 30〜34歳:554万円
- 35〜39歳:648万円(ピーク)
- 40〜44歳:624万円
- 45〜49歳:612万円
- 50〜54歳:690万円
- 55〜59歳:723万円
引用元:賃金構造基本統計調査 / 令和６年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種
注目すべきは、35〜39歳で一度ピークを迎えた後、40代で年収が下がる傾向です。これは管理職ポストの限られた数や、昇給システムの停滞が影響していると考えられます。
【性別による年収差】
- 男性薬剤師の平均年収:約623万円
- 女性薬剤師の平均年収:約543万円
- 年収差:約80万円
性別による年収差は、勤務形態(正社員・パート)の違いや、育児・介護による離職・復職の影響が考えられます。
薬剤師の給料が安いと感じる理由
統計上は平均以上の年収があるにもかかわらず、多くの薬剤師が「給料が安い」と感じています。その背景には、数字だけでは見えない薬剤師特有の事情があります。ここでは、給料が安いと感じる主な理由を7つ解説します。
理由1:薬学部の学費が高額すぎる
薬剤師になるためには6年制の薬学部を卒業する必要があり、その学費負担が「給料が安い」と感じる最大の要因の一つです。
文部科学省の「令和5年度私立大学入学者に係る学生納付金等調査結果」によると、私立大学薬学部の6年間の学費は平均約1,035万円(初年度納付金172万5,000円、授業料と施設設備費を6年間分として計算)に達します。
(引用元:文部科学省「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」)
一人暮らしの場合、生活費を含めると総額2,000万円近くになることもあります。国立大学でも6年間で約350万円の学費が必要です。この高額な教育投資に対して、年収599万円では投資回収に時間がかかりすぎると感じる薬剤師は少なくありません。
理由2:医師・歯科医師との年収格差が大きい
薬剤師が給料の安さを強く感じる理由の一つが、同じ6年制の医学部・歯科医学部を卒業した医師・歯科医師との年収差です。
前述の厚生労働省データによると、医師の平均年収1,338万円は薬剤師の約2.2倍、歯科医師の1,135万円は約1.9倍です。同じ6年間の教育期間と国家資格を経ているにもかかわらず、年収に700万〜900万円もの差があることで、相対的に自分の給料が安いと感じてしまいます。
医療現場で医師と日常的に接する薬剤師ほど、この年収差を意識しやすい傾向があります。
理由3:職場によって給与格差が大きい
薬剤師の年収は、働く職場によって大きく異なります。同じ薬剤師資格を持っていても、職場選びで年収が100万円以上変わることも珍しくありません。
【職場別の年収目安】
- 製薬会社(MR・研究職):550万〜700万円
- ドラッグストア:515万〜600万円
- 調剤薬局:450万〜550万円
- 病院:390万〜500万円
特に病院薬剤師は、他の職場と比較して年収が低い傾向にあります。厚生労働省の資料「薬剤師の偏在への対応策」によると、病院薬剤師と薬局薬剤師の生涯年収はほぼ同じですが、20〜30代の若い世代では薬局薬剤師の方が年収50万〜100万円高くなっています。
(引用元:厚生労働省「薬剤師の偏在への対応策」)
こうした職場間の格差により、他の職場の薬剤師と比較して「自分の給料は安い」と感じることがあります。
理由4:地域による給与相場の違い
薬剤師の年収は、勤務地によっても大きく変動します。一般的な職種では都市部の方が給料が高い傾向にありますが、薬剤師の場合は必ずしもそうとは限りません。
「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、都道府県別の薬剤師平均年収には最大で約250万円もの差があります。薬剤師不足が深刻な地方では、人材確保のために高い給与が提示されるケースが多い一方、薬剤師が飽和している都市部では給与が抑えられる傾向があります。
同じ業務内容でも、働く地域によって年収が大きく変わるため、高給与地域の薬剤師と比較して自分の給料を安いと感じることがあります。
理由5:昇給・昇進の機会が限られている
薬剤師の初任給は一般企業と比較して高水準ですが、長期的に見ると昇給幅が小さく、給料が上がりにくいという特徴があります。
管理薬剤師や薬剤部長などの管理職ポストは数が限られており、スキルがあってもすぐに昇格できるとは限りません。特に小規模な薬局や病院では、役職ポストが1〜2名しかなく、上の世代が在籍している限り昇進は困難です。
厚生労働省の「第24回医療経済実態調査の報告(令和5年実施)」によると、調剤薬局の一般薬剤師の平均年収は486万4,287円、管理薬剤師は734万8,725円と、約248万円の差があります。しかし、この管理職ポストに就ける薬剤師は限られているのが現実です。
(引用元:厚生労働省「第２４回医療経済実態調査 （医療機関等調査） 報告」)
長く働いても給料がほとんど上がらない状況を見て、将来への不安から「給料が安い」と感じる薬剤師が多いのです。
理由6:労働環境の過酷さと給料のバランス
薬剤師の業務は、患者の健康や命に関わる責任の重い仕事です。しかし、その責任の重さや労働環境の厳しさに対して、給料が見合っていないと感じる薬剤師は少なくありません。
- 病院勤務:夜勤や当直があり、生活リズムが不規則になりがち
- 調剤薬局:大量の処方箋処理と丁寧な患者対応の両立が求められる
- ドラッグストア:調剤業務に加えて、レジ打ちや品出しなど薬剤師以外の業務も担当
- 共通:調剤ミスが許されない緊張感と精神的プレッシャー
1日の仕事量、求められるスキルの高さ、精神的負担の大きさを考えると、年収599万円では十分な報酬とは言えないと感じる薬剤師もいます。
理由7:他の薬剤師と比較してしまう
SNSや転職サイトの普及により、他の薬剤師の年収情報が簡単に入手できるようになりました。その結果、自分よりも高い年収を得ている薬剤師の存在を知り、相対的に自分の給料を安いと感じるケースが増えています。
特に、同じ年次や同じ経験年数でも、職場や地域が違うだけで年収が100万円以上異なることもあるため、「なぜ自分の給料はこんなに安いのか」という不満につながりやすいのです。
薬剤師が年収を上げる具体的な方法
給料が安いと感じている薬剤師でも、戦略的にキャリアを選択すれば年収アップは十分可能です。ここでは、実践的な年収アップの方法を7つ紹介します。
管理職を目指してキャリアアップする
現在の職場でキャリアを積み、管理薬剤師や薬剤部長などの管理職を目指すことは、最も堅実な年収アップの方法です。
前述の厚生労働省データによると、一般薬剤師と管理薬剤師では年収に約248万円の差があります。管理職になることで役職手当が付き、責任範囲が広がる分、大幅な年収アップが期待できます。
ただし、小規模な薬局では管理職ポストが限られているため、昇進が難しい場合は、管理職候補として転職する選択肢も検討しましょう。
高収入が期待できる地方や転勤可能な職場を選ぶ
勤務地を変えるだけで、業務内容はほぼ同じでも年収が大幅に上がることがあります。薬剤師不足が深刻な地方では、都市部よりも100万円以上高い給料を提示している求人も珍しくありません。
全国展開している調剤薬局チェーンやドラッグストアでは、「全国転勤可能」という条件で働くことを選択すれば、基本給の上乗せ、転勤手当、住宅補助などの優遇措置が受けられるケースもあります。
地方勤務は、年収アップだけでなく、一人薬剤師として幅広い業務経験を積めるメリットもあります。
専門資格を取得して市場価値を高める
認定薬剤師や専門薬剤師などの資格を取得することで、専門性が評価され、資格手当が付くケースがあります。また、転職市場でも有利に働き、より高待遇の職場へ転職するチャンスが広がります。
【年収アップにつながる主な資格】
- 認定薬剤師:かかりつけ薬剤師として活動するための要件
- がん専門薬剤師:がん治療に特化した高度な知識とスキル
- 感染制御専門薬剤師:院内感染対策のスペシャリスト
- 糖尿病療養指導士:糖尿病患者の療養指導に特化
- ケアマネージャー:在宅医療分野で強い需要
資格取得には時間と費用がかかりますが、職場によっては資格取得支援制度を設けているところもあります。制度が整っている企業への転職も検討する価値があります。
正社員登用や雇用形態の見直し
アルバイトやパートで働いている薬剤師は、正社員を目指すことで年収アップできる可能性があります。
時給制のアルバイト・パートは、労働時間に応じて収入が決まるため、勤務日数や時間が限られると年収が伸びにくい傾向があります。一方、正社員は昇給や賞与の仕組みがあり、長期的な年収アップを目指しやすくなります。
ただし、正社員は転勤や異動の可能性、長期休暇の取りにくさなどのデメリットもあるため、ライフスタイルと照らし合わせて判断しましょう。
高待遇の職場へ転職する
転職は、薬剤師が年収を大幅に上げる最も効果的な方法の一つです。特に、経験やスキルを積んだ段階での転職は、交渉力が高まり、現在の年収よりプラス50万〜100万円での転職も十分可能です。
転職活動では、自分の市場価値を正確に把握し、現在の年収を開示した上で、希望年収を明確に伝えることが重要です。薬剤師専門の転職エージェントを活用すれば、年収交渉を代行してもらえるため、より高い条件での転職が実現しやすくなります。
副業で収入源を増やす
本業とは別に副業を行うことで、総収入を増やすことができます。薬剤師の資格や知識を活かせる副業は多岐にわたります。
ただし、管理薬剤師や公務員薬剤師は原則として副業が禁止されています。また、就業規則で副業が制限されている場合もあるため、必ず事前に確認しましょう。
独立開業で大幅な年収アップを狙う
経営者として自分の薬局を持つことで、店舗の利益が直接収入につながり、大幅な年収アップが実現する可能性があります。成功すれば年収1,000万円以上も十分狙えます。
独立開業は高いリターンが期待できる一方、リスクも大きいため、十分な準備と慎重な判断が必要です。まずは調剤薬局で管理薬剤師や店長として経験を積み、経営ノウハウを学んでから独立するのが賢明です。
年収アップのために知っておくべき転職のポイント
転職で年収を上げるためには、戦略的なアプローチが必要です。ここでは転職を成功させるための重要なポイントを解説します。
転職のタイミングを見極める
薬剤師が転職で年収を上げやすいタイミングがあります。
【転職に適したタイミング】
- 3〜5年の実務経験を積んだ後(即戦力として評価される)
- 認定資格や専門資格を取得した直後(市場価値が高まる)
- 管理薬剤師として実績を積んだ後(管理職候補として転職)
- 結婚・出産などライフイベントの前後(働き方を見直すタイミング)
逆に、1年未満での転職は「すぐに辞める人」という印象を与えるリスクがあるため、慎重に判断しましょう。
薬剤師専門の転職エージェントを活用する
転職で年収アップを実現するには、薬剤師専門の転職エージェントの活用が効果的です。
【転職エージェント活用のメリット】
- 非公開求人を含む豊富な求人情報にアクセスできる
- 年収交渉を代行してくれる
- 職場の内部情報(雰囲気、離職率など)を教えてもらえる
- 履歴書添削や面接対策のサポートが受けられる
- 在職中でも効率的に転職活動ができる
特に年収交渉は、自分で行うよりもプロに任せた方が高い条件を引き出しやすくなります。
希望年収を明確に伝える
転職時には、現在の年収と希望年収を明確に伝えることが重要です。「できるだけ高い年収」といった曖昧な表現ではなく、「現在550万円なので、最低でも600万円以上を希望」といった具体的な数字を提示しましょう。
ただし、市場価値とかけ離れた高額な希望年収を提示すると、採用される可能性が低くなります。転職エージェントに相談しながら、適切な希望年収を設定することをおすすめします。
まとめ
薬剤師の平均年収599万円は、全職種平均や他の医療職と比較すると決して安くありません。しかし、高額な学費、医師との年収差、職場や地域による給与格差、昇給の難しさなどから、多くの薬剤師が「給料が安い」と感じているのが実態です。
年収を上げる方法は、管理職を目指す、地方勤務や転勤可能な職場を選ぶ、専門資格を取得する、高待遇の職場へ転職するなど多岐にわたります。自分のキャリアプランやライフスタイルに合った方法を選び、戦略的に年収アップを目指しましょう。
キャリアアップで年収を上げたい薬剤師の方へ
現在の給料に不満を感じている方、キャリアアップを目指している方は、まず薬剤師専門の転職サービスに相談してみることをおすすめします。当社の薬剤師転職支援サービスでは、年収アップを実現できる高待遇の求人を多数ご紹介しています。
経験豊富なキャリアアドバイザーが、あなたの経験やスキルを正確に評価し、市場価値に見合った、あるいはそれ以上の条件での転職をサポートします。年収交渉から入職後のフォローまで、完全無料でサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。あなたの理想のキャリアを実現するお手伝いをいたします。
まずはキャリアの可能性を知る相談から
キャリア相談・面談依頼はこちらから
田井 靖人
2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。 座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。
