薬剤師の年収は高い?昇給・年収アップする方法

薬剤師 昇給

薬剤師として長く働き続けるうえで、昇給や年収アップは誰もが気になるテーマです。勤務先の違いによって昇給のしくみは異なり、定期昇給が保証されている職場もあれば、なかなか給与が上がらない職場もあります。この記事では、薬剤師の昇給の実態を職種別に分析し、確実に年収を上げるための具体的な方法をご紹介します。

薬剤師の平均年収と昇給の現状

 

薬剤師の年収がどのように推移しているのか、まずは全体像を把握しましょう。職場環境や年齢によって、昇給のペースには大きな違いがあります。

薬剤師全体の平均年収データ

厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師全体の平均年収は599万円となっています。過去3年間の推移を見ると、2021年が581万円、2022年が583万円、2023年が580万円と横ばいでしたが、2024年には約20万円上昇しました。この背景には、深刻な薬剤師不足を補うための待遇改善があると考えられます。

引用元:厚生労働省「賃金構造基本統計調査/ 令和6年賃金構造基本統計調査

年齢別の年収推移から見る昇給の実態

年齢を重ねることで、薬剤師の年収はどのように変化するのでしょうか。厚生労働省のデータをもとに年代別の平均年収を見ると、以下のような傾向が明らかになります。

20代では男女計で450万円からスタートし、30代で589万円、40代で657万円と着実に増加します。50代では727万円とピークを迎え、その後は定年再雇用の影響で減少に転じます。特に男性は30代前半で600万円を超え、50代で804万円に達するなど、勤続年数に応じた昇給が確実に反映されていることがわかります。

一方、女性の場合は産休・育休の取得や勤務形態の変更により、男性ほどの急激な伸びは見られませんが、50代で687万円と高水準に達しています。これは、育児が落ち着いた後にキャリアを再構築する女性が多いことを示しています。

引用元:厚生労働省「賃金構造基本統計調査/ 令和6年賃金構造基本統計調査

2024年診療報酬改定が昇給に与える影響

2024年6月に実施された診療報酬改定は、薬剤師の処遇改善を目的とした重要な施策です。厚生労働省は、2024年度にベースアップ2.5%、2025年度に2.0%、合計4.5%の賃上げ目標を設定しました。

調剤薬局では40歳未満の薬剤師を対象に0.28%の報酬改定が行われ、調剤基本料が3点引き上げられました。これにより、月1,000枚の処方箋に対応する薬局では月3万円の増収となります。病院薬剤師には0.61%の報酬改定が実施され、新設されたベースアップ評価料が賃上げの原資となっています。

引用元:厚生労働省「令和6年度診療報酬改定と賃上げについて~今考えていただきたいこと(薬局)~

勤務先別の昇給制度の違い

 

薬剤師の昇給は、勤務先によって大きく異なります。職場ごとの特徴を理解することで、自分に合ったキャリアプランを立てやすくなります。

調剤薬局の昇給制度

調剤薬局は、定期昇給が少ない傾向にあります。その最大の理由は、収入の大部分を法律で定められた調剤報酬に依存しているためです。ドラッグストアのようにOTC医薬品や健康食品で独自に売上を伸ばすことが難しく、薬剤師の給与を定期的に上げていく余力が限られています。

さらに、調剤薬局の役職ポストは管理薬剤師や薬局長に限られるため、昇進の機会も少なくなります。上のポストが埋まっている場合、長く勤めても管理職になれないという状況が生じやすいのです。

ただし、大手調剤薬局チェーンでは人事考課制度が整備されており、資格取得や社内研修を通じた評価アップが可能です。実際、2024年にはアインホールディングスが平均6%、日本調剤が平均5.5%の賃上げを実施しており、業界全体で処遇改善の動きが見られます。

引用元:アインホールディングス「給与水準の引き上げについて」、日本調剤「給与水準の引き上げについて

病院薬剤師の昇給制度

病院薬剤師は初任給が低い傾向にありますが、勤続年数に応じた昇給制度が整っている職場が多いのが特徴です。厚生労働省のデータによると、病院薬剤師の年代別平均年収は、20代で380万円、30代で500万円、40代で600万円、50代で700万円と、年齢を重ねるごとに着実に増加しています。

特に国公立病院に勤務する公務員薬剤師は、法律で定められた定期昇給があり、毎年6,000〜7,000円程度の月給アップが保証されています。2024年には人事院の給与改定により、公務員薬剤師の初任給が24万4,400円となり、前年比で2万1,700円の大幅増となりました。

民間病院の場合は、国公立病院のように明確な昇給規定がないケースも多く、病院の経営状態によって昇給やボーナスが左右されやすい面があります。しかし、管理職に就くことができれば、年収は大きく上がる可能性があります。

引用元:厚生労働省「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会参考資料4:薬剤師の偏在への対応策

ドラッグストアの昇給制度

ドラッグストア業界では、2024年春闘で高水準の賃上げが実現しています。ウエルシア薬局では正規雇用の従業員に総額2万555円(6.07%)、パート従業員に時給88.1円(7.95%)の賃上げを実施しました。スギ薬局も正規雇用で平均1万5,982円(4.89%)、パート従業員で時給79.4円(6.93%)の賃上げを行っています。

ドラッグストアは店舗数が多く、薬局長や店長、エリアマネージャーなど、昇進ルートが比較的明確に用意されているのが特徴です。業績に応じて給与が変動しやすい面もありますが、チェーン展開している企業では管理職ポストが多く、キャリアアップのチャンスが豊富にあります。

引用元:流通ニュース「賃上げ2024/ウエルシア、スギともに正社員満額で妥結

薬剤師が年収をアップさせる5つの方法

 

昇給の機会が限られている職場でも、工夫次第で年収を上げることは可能です。具体的な方法を5つご紹介します。

方法1:管理職へ昇進する

年収アップの最も効果的な方法は、管理職ポストに就くことです。調剤薬局の管理薬剤師の平均年収は、厚生労働省の調査によると700万〜900万円と非常に高水準です。病院薬剤師の場合も、主任薬剤師や薬剤部長に昇格すると、役職手当として数万円が基本給に上乗せされます。

管理職を目指すには、薬剤の知識を深める勉強や研修への積極的な参加が不可欠です。また、人材育成やマネジメントスキルも求められるため、周囲のスタッフと良好な関係を築き、薬局全体を効率的に運営していく力を身につけることが重要です。

引用元:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)令和5年実施

方法2:認定薬剤師・専門薬剤師の資格を取得する

資格の取得により、資格手当の支給や昇進のチャンスが広がります。認定薬剤師や専門薬剤師の資格を持つと、一般的には月数千円の資格手当が加算されるケースが多いようです。

特に病院薬剤師の場合、がん、感染症、緩和ケアなどの専門資格は需要が高く、チーム医療の一員として活躍できる場が広がります。他の薬剤師との差別化にもなり、転職の際にも有利に働くでしょう。ただし、すべての職場で資格手当が支給されるわけではないため、事前に確認することが大切です。

方法3:転職で好条件の職場に移る

今の職場で昇進の可能性が低く、資格手当も支給されない場合は、転職による年収アップを検討する価値があります。経験とスキルを十分に備えていれば、現在の職場よりも好条件で雇用してもらえる可能性は高いでしょう。

特に、薬剤師不足が深刻な地方では、都市部よりも高い年収を提示する求人が多く見られます。例えば、厚生労働省のデータによると、東京都の薬剤師平均年収が609.3万円であるのに対し、熊本県は761.8万円、広島県は715.7万円と、100万円以上の差があります。勤務地にこだわりがなければ、地方への転職も有力な選択肢となります。

引用元:厚生労働省「賃金構造基本統計調査/ 令和6年賃金構造基本統計調査

方法4:他業種へのキャリアチェンジ

調剤薬局から病院、ドラッグストアなど、業種を変えることで年収アップが実現できる場合があります。病院で臨床経験を積んだ薬剤師のスキルは高く評価されており、調剤薬局やドラッグストアへの転職では好条件で採用される可能性が十分にあります。

ドラッグストアは店舗数が多く慢性的な人手不足のため、管理職候補としての転職も狙いやすいでしょう。エリアマネージャーなどのポストもあり、昇進ルートが比較的明確なのも魅力です。

方法5:昇給率の高い企業を選ぶ

転職を検討する際は、年収だけでなく昇給率にも注目しましょう。昇給率が3%程度の企業もあり、長く勤めることで着実に年収を増やすことができます。ただし、昇給率を公開している企業は少ないため、転職エージェントを活用して情報を収集することが重要です。

また、昇給率が高くても、自分に合わない社風であれば長く勤めることは難しくなります。職場環境や働き方が自分に合っているかをしっかり見極めることが、結果的に年収アップにつながります。

昇給交渉を成功させるポイント

 

既存の職場で昇給を目指す場合、適切な交渉が必要です。成功率を高めるためのポイントを押さえておきましょう。

交渉のタイミング

昇給交渉は、年度の予算編成時期や人事評価のタイミングで行うのが効果的です。多くの企業では4月や10月に給与改定が行われるため、その2〜3ヶ月前に上司に相談するのがベストです。また、新しいプロジェクトの成功や資格取得など、自分の貢献を具体的に示せる実績があるタイミングを選びましょう。

具体的な根拠を示す

感情的な要求ではなく、客観的なデータや実績に基づいて交渉することが大切です。同職種の市場相場、自分が担当した業務の成果、取得した資格や研修実績などを整理し、昇給に値する理由を明確に伝えましょう。業界平均や地域の給与水準と比較して、自分の給与が適正かどうかを示すことも有効です。

職場への貢献をアピールする

昇給交渉では、自分が職場にどのような価値を提供しているかを具体的に説明することが重要です。患者さんからの評価、後輩指導の実績、業務改善の提案など、数字で示せる成果があればより説得力が増します。「自分が昇給に値する人材である」という認識を上司に持ってもらうことが、交渉成功の鍵となります。

転職による年収アップを成功させるコツ

 

転職で年収を上げるには、計画的な準備と戦略が必要です。失敗しないためのポイントを確認しましょう。

転職回数には注意が必要

転職を繰り返すと、かえって年収が頭打ちになるリスクがあります。一般的に、30代で3社、40代で4社、50代で5社以下が転職回数のボーダーラインとされています。特に男性の場合、転職回数が多いと採用側からマイナス評価を受けやすくなるため、慎重に転職活動を行うことが大切です。

転職エージェントを活用する

年収アップを目的とした転職では、転職エージェントの利用が効果的です。エージェントは一般の求人には載っていない非公開求人を多数保有しており、希望に合う求人をピックアップして紹介してくれます。

また、求人票に書かれていない内部事情や昇給制度、職場の雰囲気などの詳しい情報も提供してくれるため、転職後のミスマッチを防ぐことができます。給与交渉の代行も行ってくれるため、自分では言いにくい条件面の交渉もスムーズに進められます。

長期的なキャリアプランを考える

目先の年収だけでなく、5年後、10年後のキャリアを見据えて転職先を選びましょう。昇給制度が整っているか、管理職ポストへの道は開かれているか、資格取得支援制度があるかなど、長期的に年収を上げていける環境かどうかを確認することが重要です。

初年度の年収が高くても、その後の昇給が見込めなければ、結果的に年収は頭打ちになってしまいます。転職先の昇給実績や管理職の年収なども事前にリサーチし、総合的に判断しましょう。

パート・派遣薬剤師の昇給について

 

正社員だけでなく、パートや派遣で働く薬剤師も年収アップを目指すことができます。

パート薬剤師の時給相場と昇給

都内の平日日中勤務の場合、時給2,000円前後が平均相場とされています。時給2,500円以上であればかなり高い水準といえるでしょう。パート薬剤師の昇給は、雇用主との交渉次第の部分が大きいため、定期的に時給の見直しを相談することが重要です。

2024年の診療報酬改定では、大手調剤薬局やドラッグストアでパート薬剤師の賃上げも実現しています。ウエルシア薬局では時給88.1円(7.95%)、スギ薬局では時給79.4円(6.93%)の賃上げが行われており、今後もこの流れは続くと予想されます。

将来的に正社員を目指す場合の注意点

パートから正社員への転換を考えている場合は、時給の高さだけで職場を選ぶのではなく、職場の雰囲気やキャリアアップの可能性も考慮しましょう。正社員登用制度があるか、研修制度が充実しているかなどを事前に確認し、長期的なキャリア形成を見据えた職場選びが大切です。

まとめ

 

薬剤師の昇給は、勤務先や雇用形態によって大きく異なります。調剤薬局では定期昇給が少ない傾向にある一方、国公立病院では確実な昇給が保証されています。2024年の診療報酬改定により、業界全体で処遇改善の動きが進んでおり、今後も賃上げの流れは続くと予想されます。

年収を上げるには、管理職への昇進、資格取得、転職など、複数の選択肢があります。自分のキャリアプランに合わせて最適な方法を選び、計画的に実行していくことが重要です。転職を検討する際は、専門の転職エージェントを活用し、昇給制度や長期的なキャリアパスも含めて総合的に判断しましょう。

当社の転職支援サービスでは、昇給実績の高い求人や非公開求人を多数ご紹介しています。経験豊富なキャリアアドバイザーが、あなたの希望や適性に合わせた最適な転職先をご提案し、年収アップを全力でサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。

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監修 薬進キャリアサポート代表エージェント
キャリアコンサルタント

田井 靖人

2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。 座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。

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