薬剤師として働く上で気になるのがボーナス(賞与)の金額。年収を大きく左右するボーナスは、職場選びや転職を考える際の重要な判断材料になります。
本記事では、厚生労働省の最新データに基づき、薬剤師のボーナスの平均額や職場別・年齢別の相場、支給額をアップさせる具体的な方法まで詳しく解説します。自分のボーナスが平均と比べてどの位置にあるのか、今後どうすれば増やせるのかが分かります。
薬剤師のボーナスの平均額はいくら?
まずは薬剤師全体のボーナス平均額を確認しましょう。最新の公的データをもとに、全体像を把握することが重要です。
全体の平均ボーナス額
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師のボーナス(年間賞与その他特別給与額)の平均は82万3,600円です。従業員数10人以上の企業に勤める薬剤師を対象としたこのデータから、1回あたりの支給額は約41万円と推測されます(夏・冬の年2回支給の場合)。
同調査によれば、薬剤師の平均月給は40万7,000円(所定内給与額:38万5,900円)であることから、ボーナスは基本給の約2.1ヶ月分に相当する計算になります。
企業規模別のボーナス平均額
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、企業規模によってボーナス支給額には以下のような差があります。
- 従業員10~99人:82万4,700円
- 従業員100~999人:89万1,900円
- 従業員1,000人以上:81万3,500円
意外なことに、100~999人規模の中堅企業が最もボーナス支給額が高く、1,000人以上の大企業よりも約8万円多い結果となっています。これは、大企業では若手薬剤師の比率が高いことや、中堅企業では経験豊富な薬剤師を高待遇で採用している傾向があることが理由と考えられます。
男女別のボーナス平均額
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、男女別のボーナス平均額は以下の通りです。
- 男性薬剤師:89万5,300円
- 女性薬剤師:80万2,100円
男性の方が約9万円高い結果となっていますが、これは平均勤続年数の差(男性11.0年、女性7.9年)や管理職比率の違いが影響していると考えられます。女性薬剤師は結婚・出産などのライフイベントでキャリアを一時中断するケースがあるため、平均勤続年数が短くなる傾向があります。
年齢別・経験年数別のボーナス相場
薬剤師のボーナスは年齢や経験年数によって大きく変動します。キャリアステージごとの目安を確認しましょう。
年齢別のボーナス平均額
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」による年齢別のボーナス平均額は以下の通りです。
- 20~24歳:70万1,200円
- 25~29歳:74万3,800円
- 30~34歳:81万6,100円
- 35~39歳:84万7,400円
- 40~44歳:91万8,200円
- 45~49歳:96万2,100円
- 50~54歳:104万7,300円
- 55~59歳:95万6,300円
- 60~64歳:76万9,200円
年齢とともに着実に増加し、50~54歳でピークを迎えることが分かります。この年代では管理薬剤師やエリアマネージャーなどの役職に就く人が増えるため、ボーナス額も大きく上昇します。
経験年数別のボーナス平均額
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」による経験年数別のボーナス平均額は以下の通りです。
- 経験年数0年:54万1,000円
- 経験年数1~4年:72万6,700円
- 経験年数5~9年:79万8,400円
- 経験年数10~14年:88万5,700円
- 経験年数15年以上:101万2,100円
入社1年目と15年以上では約47万円もの差があります。経験を積むことで基本給が上昇し、それに伴ってボーナスも増加していく仕組みです。
新卒1年目のボーナス事情
新卒1年目の夏のボーナスは、査定期間が短いため、通常より少額か「寸志」程度の支給となることが一般的です。多くの企業では数万円から10万円程度が目安です。
冬のボーナスからは通常の査定が適用され、経験年数0年の平均である54万1,000円を年間で期待できます(ただし、夏のボーナスが少ない分、実際はこれより低くなります)。
職場別のボーナス相場
薬剤師が働く職場によってボーナスの支給額は大きく異なります。それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
調剤薬局のボーナス相場
調剤薬局のボーナスは年間70~90万円程度が相場です。大手チェーン薬局では基本給の5~6ヶ月分を支給するケースが多く、中小規模の個人薬局では3~4ヶ月分程度となることもあります。
大手チェーンの場合、営業成績や会社全体の業績によってボーナスが上乗せされることもあります。一方、個人経営の薬局では経営状況によって支給額が変動しやすい傾向があります。
調剤薬局の特徴は、昇給ペースが比較的緩やかなため、勤続年数を重ねてもボーナスが大幅に増えにくい点です。ただし、地方の薬剤師不足地域では、人材確保のために高額のボーナスを設定している薬局もあります。
病院のボーナス相場
病院薬剤師のボーナスは年間60~80万円程度が相場です。他の職場と比較すると低めですが、これは基本給自体が低く設定されていることが主な理由です。
公立病院の場合、給与体系が明確で、勤続年数に応じて確実にボーナスが増えていく仕組みになっています。一方、民間病院では経営状況によって支給額が変動することがあります。
病院薬剤師は夜勤手当や当直手当などの各種手当が充実しているため、ボーナスは少なくても月々の総支給額は比較的高めになる傾向があります。
ドラッグストアのボーナス相場
ドラッグストアのボーナスは年間90~100万円程度が相場で、薬剤師の職場の中では最も高水準です。
これは、調剤業務に加えて一般小売業としての店舗業務も兼務することへの対価であり、また昇進ペースが速いことも理由の一つです。店舗運営や在庫管理、レジ業務なども担当するため、業務範囲が広い分、ボーナスも高く設定されています。
大手ドラッグストアチェーンでは、営業成績に応じたインセンティブが加算されることもあり、店舗の売上に貢献すればさらに高額のボーナスを期待できます。
製薬会社のボーナス相場
製薬会社のボーナスは年間100~140万円程度が相場で、業種別では最高水準です。特にMR(医薬情報担当者)の場合、営業成績に応じたインセンティブが加算されるため、150万円以上になることも珍しくありません。
研究開発職や品質管理職も、企業の規模や業績によっては高額のボーナスが期待できます。ただし、製薬会社への転職には高度な専門知識や経験が求められることが多く、狭き門となっています。
公務員薬剤師のボーナス相場
人事院「令和6年国家公務員給与等実態調査報告書」によると、国家公務員薬剤師の基本給は平均31万9,000円で、ボーナスは基本給の4.4ヶ月分と定められています。これにより、年間ボーナスは約140万4,000円となります。
公務員薬剤師は基本給こそ民間より低めですが、ボーナスは非常に高額で安定しています。地方公務員の場合も、自治体によって多少の差はあるものの、同様に高水準のボーナスが期待できます。
都道府県別のボーナス相場
地域によってもボーナス支給額には大きな差があります。薬剤師の需要と供給のバランスが影響しています。
厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、都道府県別のボーナス平均額(上位5県)は以下の通りです。
- 山口県:129万5,000円
- 栃木県:126万6,000円
- 和歌山県:123万3,000円
- 静岡県:121万9,000円
- 東京都:109万7,000円
意外なことに、東京都や大阪府(79万2,000円)といった都市部よりも、地方の方がボーナス支給額が高い傾向にあります。これは、地方では薬剤師不足が深刻で、人材確保のために高待遇を提示している企業が多いためです。
ボーナスの仕組みと計算方法
ボーナスがどのように決まるのか、基本的な仕組みを理解しておきましょう。
ボーナスの算出方法
多くの企業では「基本給×〇ヶ月分」という形でボーナスを計算します。例えば、基本給が30万円で「年間5ヶ月分」の支給であれば、年間ボーナスは150万円となります。
重要なのは、ボーナスの計算基準が「基本給」であって「総支給額」ではない点です。各種手当(住宅手当、通勤手当など)はボーナスの計算には含まれません。そのため、同じ総支給額でも基本給の割合が高い職場の方が、ボーナスは多くなります。
ボーナスの支給時期
一般的に、ボーナスは夏(6月下旬~7月)と冬(12月上旬~中旬)の年2回支給されます。企業によっては決算賞与として3月に追加支給されることもあります。
ボーナスの査定期間
ボーナスには「査定期間」があります。例えば、夏のボーナスは前年10月~当年3月、冬のボーナスは当年4月~9月の勤務態度や業績を評価して支給額が決まります。
そのため、4月入社の新卒薬剤師は最初の夏のボーナスでは査定期間がほとんどないため、寸志程度となることが多いのです。
ボーナスの評価基準
ボーナスの支給額は以下の要素で決まります。
- 個人の勤務態度や業績
- 会社全体の業績
- 勤続年数
- 役職
- 欠勤や遅刻の有無
特に調剤ミスが少ない、患者対応が優れている、後輩指導に積極的などの点が評価されると、ボーナスの査定が上がります。
ボーナスが支給されないケースもある?
厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年2月分結果速報等」によると、「医療・福祉」業に属する常用労働者5人以上の事業所のうち、2023年に年末賞与を支給した事業所の割合は75.0%で、約4分の1の職場がボーナスなしとなっています。
ボーナスは法律で支給が義務付けられているものではありません。そのため、以下のようなケースではボーナスが支給されないこともあります。
- 業績が悪化した企業
- もともとボーナスなしで基本給を高く設定している企業
- 小規模な個人経営の薬局
- 経営難の病院
転職を検討する際は、求人票で「賞与あり」と記載されているか必ず確認し、過去の支給実績も聞いておくことが重要です。
ボーナスを上げる5つの方法
現在のボーナスに満足していない場合、どうすれば増やせるのでしょうか。具体的な方法を5つ紹介します。
現在の職場でキャリアアップする
最も確実な方法は、現在の職場で経験を積み、基本給を上げることです。
管理薬剤師、薬局長、エリアマネージャーなどの役職に就くことで、役職手当が加算されるだけでなく、基本給自体も上昇します。基本給が上がれば、自動的にボーナスも増えます。
調剤薬局であれば管理薬剤師を目指す、ドラッグストアであれば店長からエリアマネージャーへとステップアップすることで、年間20~50万円程度のボーナスアップが見込めます。
認定薬剤師・専門薬剤師の資格を取得する
専門性を高めることで、人事評価が上がり、ボーナスの査定にプラスになります。
- がん専門薬剤師
- 感染制御専門薬剤師
- 精神科専門薬剤師
- 在宅療養支援認定薬剤師
これらの資格を取得すると、月々の資格手当(5,000円~3万円程度)が加算されるだけでなく、基本給のベースアップにもつながることがあります。
また、かかりつけ薬剤師になるための条件として認定薬剤師の資格が必要なため、業務の幅を広げることができます。
業績に貢献する
会社や店舗の業績向上に貢献することで、ボーナスの査定が上がります。
- 在宅医療の新規患者獲得
- かかりつけ薬剤師の指導料算定
- OTC医薬品の販売促進
- 後輩薬剤師の育成
- 業務効率化の提案
特にドラッグストアでは営業成績が直接ボーナスに反映されるため、売上に貢献することで大幅なボーナスアップが期待できます。
長期勤続する
同じ職場で長く勤めることで、勤続年数に応じて基本給が上がり、結果としてボーナスも増えます。
ただし、調剤薬局では昇給ペースが緩やかなため、長く勤めてもボーナスがあまり増えないケースもあります。自社の給与規定を確認し、長期勤続によって確実に給与が上がる仕組みがあるかチェックしましょう。
転職してボーナスが高い職場に移る
今の職場でボーナスを増やすのが難しい場合、転職が最も効果的な方法です。
職場を変えるだけで、年間20~50万円、場合によっては100万円以上のボーナスアップが実現できます。特に以下のような転職が有効です。
- 病院→調剤薬局:年間10~20万円アップ
- 調剤薬局→ドラッグストア:年間20~30万円アップ
- 民間→公務員:年間50~70万円アップ
- 調剤薬局→製薬会社:年間30~60万円アップ
転職の際は、年収だけでなくボーナスの支給実績や算定方法を必ず確認しましょう。「基本給×〇ヶ月分」の「〇」の部分が大きい職場を選ぶことが重要です。
転職でボーナスアップを目指す際の注意点
転職によってボーナスを増やしたい場合、以下のポイントに注意しましょう。
ボーナスの支給実績を確認する
求人票に「賞与年2回」と書かれていても、実際の支給額や過去の実績を確認することが重要です。面接時に「昨年のボーナス支給実績は何ヶ月分でしたか」と質問しましょう。
年収全体で判断する
ボーナスが高くても、基本給が低ければ年収全体では不利になることがあります。また、各種手当(住宅手当、通勤手当、資格手当など)も含めた総合的な待遇で判断しましょう。
転職後1年目のボーナスは少ない
転職後最初の夏のボーナスは、査定期間が短いため通常より少なくなることを覚悟しておきましょう。本来の支給額になるのは、転職後2回目のボーナスからです。
ボーナス後の転職を考える
現職でボーナスをもらってから転職したい場合、就業規則を確認しましょう。「ボーナス支給日に在籍していること」などの条件が設定されていることがあります。
一般的には、ボーナス支給日から1~2ヶ月後に退職するのが円満に退職できるタイミングです。ただし、引き継ぎをしっかり行い、職場に迷惑をかけないことが最優先です。
転職エージェントを活用する
薬剤師専門の転職エージェントは、求人票には載っていないボーナスの実態や企業の内部事情を把握しています。
年収交渉の代行もしてくれるため、自分で交渉するよりも好条件を引き出せる可能性が高まります。複数のエージェントに登録して、幅広い求人情報を比較検討しましょう。
派遣・パート・アルバイトのボーナス事情
正社員以外の雇用形態では、ボーナスはどうなるのでしょうか。
派遣薬剤師のボーナス
派遣薬剤師は派遣会社と雇用契約を結んでいるため、派遣先からボーナスが支給されることはありません。また、派遣元の派遣会社からボーナスが支給されることも、基本的にはありません。
ただし、派遣薬剤師の時給は正社員の基本給換算より高く設定されているため、年収ベースでは正社員と大きな差がない場合もあります。
パート・アルバイト薬剤師のボーナス
パート・アルバイトには一般的にボーナスは支給されません。正社員と同じ時間働いても、年収では100万円以上の差が出る可能性があります。
ただし、時給が高く(2,000~3,000円程度)、働く時間を自由に調整できるメリットがあるため、ライフスタイルに合わせて選択することが大切です。
契約社員のボーナス
契約社員の場合、契約内容によってボーナスの有無が決まります。「賞与あり」の契約であれば正社員と同様に支給されますが、多くの場合は「賞与なし」で、その分基本給や時給が高めに設定されています。
まとめ
薬剤師のボーナスは年間平均82万3,600円で、職場や年齢、経験年数によって大きく異なります。調剤薬局は70~90万円、病院は60~80万円、ドラッグストアは90~100万円、製薬会社は100~140万円、公務員は約140万円が相場です。
ボーナスを上げるには、現職でのキャリアアップ、資格取得、業績貢献、長期勤続が有効ですが、最も効果的なのは条件の良い職場への転職です。転職を検討する際は、ボーナスの支給実績や算定方法を必ず確認し、年収全体で判断することが重要です。
薬剤師専門の転職エージェントを活用すれば、求人票には載っていない情報も得られ、より好条件での転職が実現できます。
まずはキャリアの可能性を知る相談から
キャリア相談・面談依頼はこちらから
田井 靖人
2013年摂南大学法学部を卒業後、不動産業界で土地活用事業に従事。
2019年から医療人材業界へ転身し、薬剤師と医療機関双方に寄り添う採用支援に携わる。
現在は薬剤師が“自分らしく働ける環境”を広げるべく、現場のリアルやキャリアのヒントを発信。 座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。どんな経験も糧に変え、薬剤師の未来を支える言葉を届けている。